宿題をやろう 智
「ちいちゃん、おっかえり」
生徒会室での宿題の帰りに地元の駅でとも君が待っていた。
「とも君は塾の帰り?」
「うん…そんな所。で、ちいちゃんにお願いがあるんだ」
「何?」
「塾の宿題で教えてほしいんだ。ちいちゃんの家に寄ってもいい?」
時間は午後4時。なるべく早く宿題を見てあげた方がいいだろう。
「いいよ。おやつになるものがないからスーパーによってもいい?」
「それは構わないけど。おばさん達は平気なの?」
「姪の登校日前後しかいないわよ。自分の実家にいるから」
私は淡々と説明をする。
去年からおば達は長期の休みは家にいない。
姪の習い事もおばの実家から通っているようだ。
おじも私を気にしておば達と一緒にいるらしい。
だから、夏休みは広い家に私一人。気楽でいい。
「ねぇ…ご飯は?」
「適当に。納豆とか、漬物とかふりかけとか」
「…栄養は?」
「いいじゃない。休みの時位」
とも君は、私に疑いの眼差しをしている。信用されていないのかい。
二人でスーパーによって、互いに買いたいものを買って私の家に向かう。
「急がないと。ガリガリ君買っちゃった」
「だったら、家に着いたら縁側で食べる?風情があっていいでしょう?」
「ちいちゃんの家は池があるもんな。それだけでも違うって」
池は父の趣味だったらしいが、池の中には金魚しかいない。
本当は何を飼いたかったんだろう?
「ところで、直也って宿題やってる?」
「やってるよ。生徒会室で」
「それは作業の邪魔しているんじゃ?」
「そこは分からない。私は自分の仕事はしてあるから平気よ」
「ふぅん、理科のここって覚えている?」
物理分野の問題が分からないらしい。まだ覚えているので説明をする。
「…分かった?ここの分野はうちの学校では出るわよ」
「そうなんだ。しっかりと覚えないといけないね」
「それと…こっちは?」
今度は社会の地理の問題を聞いてくる。1学期に習った範囲だから復習にもなる。
「成程ね。そうやって覚えれば楽だね。ちいちゃんは何でも知ってるね」
「そうやって持ちあげなくても何もでません。さっさと宿題を片付ける」
「夜…寂しくない?」
「静かで快適だよ。ずっと一人でもいいんだけどな…そうもいかないし」
「そういえば、ちいちゃんが、底辺私立校に通ってるって噂が流れたよ。俺が否定したけど」
「それは、姪が『お姉ちゃんはバカだから第一高校に入れなくって私立に行った』って所らしいよ」
とも君に騒動の経緯を説明する。
「ふぅん。間違ってはいないんだけども…」
「怒るの怒れないから困ってるの。小学生に人の進路を聞く大人の根性が嫌だけどね」
「めんどうくさいね。大人って」
とも君は素直な感想を口にする。
その事に私は答えを出さない。そんな大人の汚い所ばかり見て育ってしまったせいだろうか?
「ちいちゃん?」
とも君が不安そうに私も見ている。
「なんでもないよ。昔の事を思い出しただけよ」
私はそう答えて誤魔化した。彼に全てを話す必要はない。
「ちいちゃん、高校って楽しい?」
「私は私なりに楽しいわよ?どうして?」
「兄貴から聞いたから…少しだけ」
なお君が何を言ったのは大体分かる。
なお君は私の事を気にしすぎだろ思う。
「偶然よ。それに今は気をつけているからもう大丈夫よ。それに友達だっているもの」
「そうなんだ。部活は?」
「2学期から文化部に入ると思う。今…誘われているんだ」
「もっと楽しくなれそうだね。良かった…心配してたんだ。俺?」
「とも君…何を?」
「兄貴と噂になっていないか?悪い噂を巻かれてないか?」
「なお君とはないよ。悪い噂ねぇ…ないとは言えないかな。興味ないけど」
「やっぱり…あったんだ。心配だな」
とも君は私の眼をジッと見る。
私は直視できなくて目線を反らした。
「眼を反らさないで。僕を見て」
そう言うととも君は右手を両手で包み込んだ。
「やっぱり…ちいちゃんの一人にしておけないよ」
「大丈夫よ。でも…寂しいな」
「なんで?彼氏がいないから?」
「優君?そんなんじゃないわ。とも君がいないから」
「僕がいないって当たり前じゃないか」
「そう。だって、なお君ととも君は似すぎてて、なお君といるのにとも君といる気がしてしまうの」
「それは喜んでいいのかな?悲しんでいいのかな?」
とも君はそんな私を見て困っていた。
「だけど…後輩になってくれるんだよね?あの約束は有効なのかな?それとも変えるの?」
「変えないよ。ちゃんとS高に行くよ。だから…待ってて。頼りないちいちゃんを見守ってないとね」
とも君はにこやかに笑う。
「私…そんなに頼りないかな」
「僕にとっては…ね。でも…そのままでいてね」
「なんで?」
「なんでも!!そろそろ家に帰るね。またね…ちいちゃん」
とも君は、急いで荷物をまとめて玄関を出た。
時計を見たら、6時半を過ぎていた。陽もかなり傾いてる。
なんで…あの時とも君に寂しいって言ったんだろう?
自分でもその答えが見いだせていない。
その答えが分かるのはそれから約2カ月がたった時の話。




