宿題をやろう 創
「ちい…夏休みの宿題終わったか?」
お盆が過ぎた8月18日のお昼。唐突にその電話はかかってきた。
「創君。終わったけれども。」
「なぁ…俺分からない所があるから、ココスで教えて貰ってもいいか?」
いつもならマックで宿題を一緒にやるのに、いきなりファミレスを指定される。
何か意味があるのかなぁ?
「うんとさ…いつもよりも時間がかかりそうだからさ?早速だけども明日でもいいか?」
「えっと明日は…何もないからいいよ。何時にココスに行けばいい?」
「俺は文化祭の準備が午前中にあるから、午後1時ってどうだ?」
「じゃあ、ココスでお昼食べようよ。ダメかな?」
「それで決まりな。じゃあ、明日な」
私は受話器を置いた。
創君に会うのは、先月に天体観測をして以来だから1カ月は会っていない。
創君なら、自力で宿題ができると思うんだけどもどうしのかな?
一人でのんびりと過ごす夏休みにも飽きていたから私にとっては渡りに船だった。
「相変わらず、時間前にいるんだな」
「当然です。おかえり」
「とにかく入ろうぜ。今日も暑いな」
私達はファミレスの店内に入り、窓際の席に通された。
「元気だった?」
「あぁ、それなりにな」
「文化祭…大変?」
私と創君は月並みな会話をしていく。
「お前うちの文化祭に来るのか?」
「行けるのなら行きたいんだけども、その翌週に体育祭があるから多分…無理かもしれない」
「そっか…それは残念だな」
創君はそう言うけれども、本心から喜んでいるとは思えない。
でも…その事を聞くわけにはいかないんだろうな。
「ごめんね。来年は行けるようにするね。創君は来てくれたのにね」
「お前はそんな事を気にしないの。さあ、数学のノート持ってきてくれたか?」
「あっ、持ってきたよ。私も数学の予習をするけど、そのノートは使わないからいいよ」
私達は食事が終わってから各自の勉強を始めた。
「やっぱり、S高は大変か?」
「分かって入っているからねぇ。慣れるしかないよ」
「お前は相変わらず偉いなぁ…いい子だ」
そう言うと創君は私の頭を撫でてくれる。
ちょっとだけ恥ずかしいけれども、創君の撫でてくれる手が亡くなった父を思い出す。
「ちい…どうした?もしかして…優の事を思い出したか?」
「それは…ないよ。亡くなったお父さんの手を思い出しただけ。もう少し続けて貰っていい?」
「あぁ、そんなんで良ければ暫く撫でてやるぞ」
そう言うと、創君は暫く私の頭を撫でてくれた。
「さあ、始めようか」
私達はその言葉を合図に私は予習を、創君は宿題を始める。
「なあ、優に彼女ができたんだ」
「ふうん、そうなんだ」
「お前…ふっきれたのか?」
「どうかな?4月に会って以来、一度も会ってないから一緒にいた時間も夢だったのかもね」
「完全じゃないな。でも女がいることでは、動揺はないみたいだな」
「そうだね」
「その彼女がお前と同じ学校だとしても、なんとも思わないか?」
「気になる程度かな。だって、私達の道は途切れたんだよ?どうやって元に戻すわけ?」
「そうだな。この話はそこまでにしておこうか。本人からもっと聞けたら教えようか?」
「自然に分かるよ。そういうことは。大丈夫。創君は気にしすぎだよ。それよりも…本当は知ってるんでしょ?」
「えっ?」
創君が驚いた顔をしている。図星なんだろうね。
「嘘はつかないで。例えそれが優しい嘘だとしても、全てを知った時に創君に優しい嘘をつかせた事を私が後悔するから」
「ちい…」
「そのために今日、ここに呼び出したんじゃないの?」
「あぁ、そうだな。でも止めた。優にお前に教えていいのか確認してからにする。その前にお前が知る可能性もあるけどな」
「平気だよ。私は捨てられたんだから。もう、あの時間の中で留まってるわけじゃないから」
「そうか、だったら…待ってろ」
私はコクンと頷いた。
やっぱり創君は私には優しい。
どうして…創君は私にこんなに優しいのだろう?
「どうして…」
「ん?何?」
「創君はこんなに優しいの?」
「そうだな。お前が心配だからだよ。ほとんど人に甘えず行動するからな」
「…ごめんなさい」
創君に指摘されて私は謝る。
確かに私は他人に甘える事を最も苦手にしているから。
「俺でも、義人でも、静香でもいいからもっと…甘えてくれ。待ってるから」
「もしも…優君の彼女の事を聞いて私が取り乱したら?」
「その時は…抱きしめるからな…多分」
「創君…それは」
「そうならないといいけどな。ありがとう。ノート助かったぜ」
私達はもう暫く話をしてからファミレスを後にした。
「優の件はまた連絡するから」
「分かった。送ってくれてありがとうね」
「お前…一人なのか?」
「休みの時はね。でも…気が楽だよ。一人は辛いけど」
「寂しければ俺達を呼べよ?」
「分かった。約束だものね」
「じゃあ、帰るな」
創君は私が玄関に入ったのを確認してから自転車に乗って帰って行った。
創君は本当は宿題は終わっていたと思う。
優君の事を創君達以外の人から聞かせたくなかったんじゃないのかな。
創君に優しい嘘をつかせないで済んでよかったと思ってる。
これ以上、私の事で誰かを傷つけたくもない。
そういう意味では私自身が動き出す時なのかもしれない。
最初の一歩は勇気が必要なのは分かっている。
皆が側にいてくれたら…一歩出せるそんな気がした。
また…彼女が誰なのか分からないし…。
そこは仕様となっております。ごめんなさい。




