Parallel さみしいなんて verなお君
なお君だったら…意外にヘタレだからどうなんだろう
高校1年の6月下旬頃です
「ちいちゃん、あとどの位で終わりそう?」
千世ちゃんが私の作業を確認する。
私が今やっているのは、去年の部活動報告書を作成することだ。
各部からの提出書類と領収書の確認をしている。
「無理に進めなくていいなら、明日にできますよ」
「だったら、終わりにしましょう。今回の書類は…期末テスト前でいいからね」
千世ちゃんは私にリミットを教えてくれる。
期末テスト前って…後…10日ですね。結局はサクサク進めろって事ですね。
文化祭が終わってからは、生徒会からスカウトされたという形で正式に会計になった。
文化祭の決算収支がようやく終わったのがつい3日前。
きっちり計算すると絶対におかしいものが出てくるから、少しは目をつむれって言う事を私は学習した。
今回の書類の場合は、そういうことはしてはならないと聞いている。
計算して、合っていなければこちらで訂正をして処理していいという。
それだけ…部活動が盛んじゃないという証明になる。
「じゃあ、今日はもう終わりにしましょう」
千世ちゃんの一言で私達は片づけ始めた。
結局最後までいたのは、私と真奈ちゃんと千世ちゃんの3人。
「そろそろ直也も来るから。真奈ちゃんは先生と帰るのかな?」
「はい、今日はそのつもりです。急いで捕まえないと。お先に失礼します」
「お疲れ様です」
「また明日ね」
真奈ちゃんは非常勤の化学の先生が従兄妹になるんだそうだ。
だから、出勤日は送り迎えをして貰っているんだって。
でも、本人はひた隠しにしているから、知っている人は限られている。
「おう、待たせたな。帰ろうぜ」
バタバタと五月蠅い音を立てて、なお君が生徒会室に入ってくる。
「久し振りに部活やってきたぜ。千世、レギュラー取れたから暫く部活に専念するな」
「いいわよ。どうぞ」
カチャ。生徒会室のカギを掛けて私達は帰宅することにした。
なお君達カップル+お邪魔虫のこの構図は、既に学校中に認識されているようだ。
二人の仲の良さのおかげで、私が邪魔をしているという見られ方はしていない。
それよりはむしろ…二人のおもちゃという構図の方が正しいのかもしれない。
「ちいちゃんも気を楽にしていいのよ。今回の書類は2学期の頭に各部に不備を指摘して再確認してもらってから最終報告をして、それを元に来年と予算案を作成するの。早めにすれば夏休みに登校することがなくなるからね」
千世ちゃんは私を気遣ってくれる。その配慮だけでも十分に有難い。
「分かりました。でも早めに作成しないと問題ですよね。無理はしませんよ」
「今日はどこまで終わったの?」
「とりあえず、全部の書類の合計と領収書の合計を確認して、内訳は吹奏楽部以外の文化部は終わりましたよ」
「やっぱり、ちいちゃんは作業が早いわね。会計にお願いして正解だったわ。ありがとね、直也」
「どうだ。俺だって人を見る目はあるんだぜ?」
「そうね、それだけは認めるわ。部活もいいけど作業もしなさいね」
やっぱり千世ちゃんだ。そういう所は抜け目ない。
「じゃあ、ちい。ちょっと後でな」
「は~い」
正門前。私と千世ちゃん達は一度ここで別れる。
千世ちゃんの家は学校前のバス停の一つ手前。
歩くと3分位のところなので、朝もなお君は一つ手前で降りて彼女を迎えに行く。
帰りも同じで送って行って一つ手前から乗ってくる。
私が混ざってからの毎日の光景。
最初は見られたりもしたけれども、二人きりの時には思い切りなお君におもちゃの様にいじられてるからやり返していたら…それが既成事実になっただけだった。
「おいっ、どうしたんだ?」
「どうしたって何?」
先にバスに乗っていたなお君は私に席を譲ってくれようとするので
「今日は大丈夫。部活上がりだから…荷物持ってくれたらいいから」
「そうか?体調悪くなったらすぐに言えよ。顔色悪いみたいだから」
なお君はそう言って、私の荷物を受け取った後に、私の額に手を添える。
「うーん、熱はないみたいだな」
「すこぶる元気じゃないですけど、大丈夫って言ったでしょう?」
私は頬を膨らませて、なお君を睨む。
「そんなによく膨らむ頬だな。お前はリス科の動物か?」
なお君はケラケラ笑いながら、私の頬をつつく。
「だから!!そういうことは家で弟相手にして下さい。迷惑です」
私は怒ってなお君の頭を軽くはたいた。
「いってぇ。お前の背筋力は俺よりあったよな?」
「そうでしたっけ?記憶にございません」
「お前の肩と体力があればなぁ、バスケができるのになぁ」
「私は本来室内で過ごすのが好きなんで…謹んでお断りします」
「分かってるって。宝の持ち腐れなだけだけどな」
「全く…五月蠅い。だったら、鍛えればいいでしょうが」
「だったら…泳ぎに行くか?」
「絶対に行きません!!」
私はそっぽを向いてしまう。
確かに競泳は中学2年でやめてしまったが、フォームが崩れない程度に2週間に1度程度は今でも続けている。
あの頃より、筋力も体力も低下している事は誰よりも痛感している。
もしも、あのまま続けていたら…皆の様に体力がもっとあったのなら…私はどうなっただろう?
いえる事は、S高には入学していなかっただろう。
現役を続けるのなら屋内プールがある私立高を確実に選んでいただろう。
でも…そんなことは現実ではありえない。
「ちい…駅に着いたぞ。荷物位持てよ」
なお君に押し出された荷物を慌てて持って私はバスを降りてなお君を待った。
「何か…考え事か?」
「どうして?」
「いや…今は聞かないでおくさ。さあ、駅に行くぞ」
私はなお君に突っ込まれて聞かれなかったことを安堵した。
だって…今の私にはさみしさしかなかったから。
そしてそのさみしさは…だれにも知られたくなかったから。
その後、互いの学校であったことを話ながら地元の駅まで戻ってきた。
駅からは自転車で帰る。駅からは私の家が近いからなお君が送ってくれる。
「なぁ、何を考えていた?」
私の家の前で別れ際になお君が尋ねる。
「なんで?」
「さみしそうだったから。言ってみろよ?」
私が自転車を置いたのを確認してからなお君は私の肩に手をかけた。
「どうして?たいしたことないって」
「そうやって…隠すな」
肩に手をかけていたなお君はグイッと私の肩を引いた。
「えっ、なお君?」
「ちゃんと…吐きだせ。ため込むともっと…辛くなるぞ」
私の耳元でなお君は囁きながら…背中をポンポンと撫でている。
久し振りに感じる懐かしいリズムで私の何かが壊れ始めた。
「もしも…私が…丈夫だったら」
「あぁ」
「私の人生は…どうだったんだろう?」
「違ったかもな。だから、俺が今…お前を腕の中に閉じ込めたりしてない」
「そっ、そうだよ。千世ちゃんがいるのに…」
「今はあいつの事を言うな」
「ダメだよ…なお君。私はそんな事…望んでない」
「分かってる。分かってるさ。でも…今のお前はこうでもしないと本音を言わないだろ?」
「もしも…私が私として生まれなかったら…」
「そっ、そんなこと言うなよ。俺達が出会えないだろ」
そう言うとなお君は私を強く抱きしめた。
私…どうしたらいいんだろう?
なお君は私をどう…もしかして妹じゃなくって…どうしよう…。
「俺、お前に会えて良かった。タダ…お前に対して持ってる感情に気がつくのが遅すぎた」
「なお君…それって…」
「好きだ…。でも俺の横には千世がいる。あいつを捨ててまでとは思えない。この想いを告げるのは今日で最後。だから…今だけは…このままでいてくれ…」
「でも…私が生徒会にいるのは辛くない?」
「いいや。お前は組織で守られないといけない。俺らがいる事が理絵に対しての抑止力になってるのは分かっているだろう?」
私は反論ができない。確かに今の理絵が静かなのはそうかもしれない。
「いつ、攻撃されるか分からん。でもそれまでにお前も守れるモノを用意しないとな」
なお君は私を保護するために、生徒会に入れたんだ。
ってことは、全て把握しているんだ。
「そんな事をしても…なお君には何のメリットもないよ…いてっ」
急になお君は私の額にデコピンをした。
「お前の笑顔を一番多く見れるからいいんだ。俺は…お前を見守ることにした。千世と一緒に」
「なお君…ありがとう」
私は上を向いてなお君の顔を見つめる。
「だったら…俺の我ままを聞いてくれないか?目を閉じて」
私は言われるままに目を閉じた。私の右の瞼に温かい感触を感じた。
「唇にキスはどうかと思ったけど…この位許してくれ…な」
「してから許せは横暴です」
「そうか。そうだな…あはは…」
なお君は私を腕から解放してくれた。はぁ…びっくりした。
「そのうち…お前の隣に寄りそう男が出てくるだろう。そいつだけは手放すなよ」
急に予言めいたことをなお君は言う。
「私…3年間はそういうことは考えたくない」
「はかなげに見えるお前は庇護欲をそそるんだよ。お前の意思に関係なくな」
そっ、そんな事を言われても私も困る。
「私はどうしたらいいの?」
どうしていいのか分からなくって、私はなお君は私に尋ねる。
「そうだな。何もしない。近付いてくる奴らを観察しろ」
「観察?」
「そう、そうしたら…お前にとって味方なのか?敵なのか?興味本位なのか分かるだろう?」
私は首を縦に振る。なお君の言いたい事がようやく分かった。
「お前は頭がいいからもう分かったな。その中にはお前を守るナイトもいるのは分かるよな?」
「…なお君もナイトになるんでしょう?」
「そうだな。その中からお前の大事な人が出てくるだろう」
「それはなお君のタロットの結果?」
「そうだな。お前のさみしさの根本はどうにもしてやれない。けれどもそれすらも包み込んでくれる奴と…ちい、お前は出会っている。相手は気がついているけど…お前はまだその時じゃない…よな?」
なお君は直感が鋭いからタロット占いをたまにしてくれる。
本人は恥ずかしいから他の人には言うな!!って言うけどね。
「ただ、お前が臆病すぎると、周りがくっつけようとするからな」
「うん、分かった」
「これから暫くは辛い時期がやってくる。罠にかけられる恐れがあると出た。ちい、注意しろ」
「大丈夫。いつもの私でいいんでしょ?」
「そうだな。隙を見せなければ大丈夫だろう」
「辛かったら…甘えろ。さみしかったら寄りかかれ。俺の命令だ。いいな」
「…前向きに努力します」
「じゃあ、俺は帰るな。タロットの結果はそのうちまとめて渡すから」
「うん、ありがとう。お休み…なお君」
なお君は自転車に乗って帰っていった。
気が抜けた私はその場にへたり込んでしまった。
「はぁー、びっくりした。なお君の事は今まで通りにしないとね」
私はなお君のアドバイスをもう一度考えるのだった。
side 直也
「言っちまった」
俺は必至でペダルを漕ぐ。
自分の想いを相手に伝えても通じないってタロットに出ていたのに。
衝動的に腕の中に閉じ込めて、告白をして瞼の上といえ…キスをした。
ほのかに香るハーブベースのフレグランスの匂いが鼻腔に残っている。
あいつのことだ。俺を避けるってことはしないだろう。
さっきの事も千世にも言う事もないだろう。
あいつの性格に甘えて自分の気持ちを一方的に押し付けた。
けれども、後悔していない。
俺のタロットだと、あいつの周囲にはあいつを守るナイトが多いこと。
その中の一人が抜け出て、手を取り合うだろうという事。
今のあいつのナイトは多分…俺を含めて3人。
もっと増えるという事は、あいつをちゃんと受け止める奴が今後現れるという事になる。
その一人は…同じクラスに在籍しているあいつだろう。
もう一人は、あいつの事をずっと片想いをしている俺の弟の…智。
あいつを取り合う椅子取りゲームの舞台は出来上がりつつある。
最後のイスを奪える男は誰なのか?
いえる事は…それは俺ではない。俺はそのゲームを見守るだけ。
あいつを丸ごと受け入れられる…懐の広い男があいつの側に寄りそうのは来年の春以降とタロットでは出ている。
占いが運命ではない。運命を変えるとしたら、あいつ自身の力だ。
今はそこまでの力はない。だったら、占いの結果を踏まえてトラブルを回避すればいい。
あいつの敵は、既に罠にかけようとして暗躍している。
その結果は既に形になっている。あの文化祭の日に現れたあの男。
二人を会わせないために、創が俺とコンタクトを取って生徒会役員皆を巻き込んであいつを守っている事は、本人は知らない。
いや、知らせてはならない。知ってしまったら気を遣って役員を止めるだろう。
そうなると、あいつの盾はなくなってしまう。
生徒会という盾が今は効果があるようだから。
それだっていつまでも有効ではない。
だったら、今のうちに次の対策を練らないといけない。
あの女がいるクラスに内通者を作らないとな。本人には分からない様に。
生徒会役員以外のこの顔はまだ…ちいには知られたくない。
まだ、知るには早すぎる。でもいずれはあいつらが引き継ぐだろう。
その時までは俺がきちんと職務を果たすまでだ。
「さてと…今度はどうしようかね」
俺は次に起こりそうなことを頭の中でシュミレーションするのだった。
役員以外の顔?なんかあるみたいですよ。
いずれは…だせるのかなぁ?
hs_title's様 ヒトリの夜に10のお題より




