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Parallel さみしいなんて… verひで君

彼女のさみしさに気がついた…彼女を溺愛している彼の場合。

小学校6年生の夏休みの合宿中のある夜から始まります。

「夜は涼しいね」

「そうだな。ともは寒くないか?」

「私が寒くなったら部屋に帰る約束だもの」

私の手を握っているひで君の顔を見る。

毎年恒例になったスイミングの合宿。3年前と2年前は高原で、去年は海の側。

今年は…県内にある宿泊施設。自宅からだとそんなに遠くない所だ。

昼間はセミが鳴いて、暑さを感じるが、夜はひんやり、ひっそりとしている。



「ごめんな」

私達は宿舎の近くにある公園まで散歩に来ていた。

さすがに、小学校の高学年だと同じ部屋で生活をすることはない。

…とは言っても、隣の部屋で皆互いに行ったり来たりしていて少し五月蠅い。

ひで君とは、もう側にいるようになってから4回目の夏になる。

1週間近くのこの合宿は、普段の練習よりは厳しくて皆が愚痴をこぼすのだが、

私はこの期間はひで君と一緒に長く過ごせるから楽しみにしている行事の一つだ。

ずっと一緒にいるから、私達は喧嘩をすることなんて…ほとんどない。

だから…彼に謝ることが私を不安にさせた。練習中になんかしたっけ?

意味が分からない私はきょとんとするだけだった。



「他の拠点の親たちの差し入れに来たときに俺達がいたから」

これだけ長い期間だと、親たちが差し入れをする事もある。

私達のクラブは親たちがコーチに現金を渡すことにしたようだ。

今回の合宿地は比較的に近いから、現金を渡したようだ。

遠い時は宅急便で差し入れてくれる。

私も…差し入れのお金渡したんだ。おばさんはそういうことしないから。

「なんだ…そんなことか。気にしてないよ」

私は努めて笑顔を作ることにした。他の拠点の保護者が来るのはいつもの事だから

私は気にはしていない。

それよりも、私の心に巣食ってしまった感情を持て余していた。



「そうか?なんか辛そうだぜ。練習が辛いのは俺もだけどな」

「練習の事じゃないよ。それなら大丈夫だよ」

私の心に巣食っているのは…さみしさ。差し入れのお金を自分で用意したってことだ。

このことは多分…誰も知らないはず。高額じゃないけど、おばさんに言う事ができなかった。

「でも…辛いそうだ。言ってみなよ。何で俺はともの隣にいるんだ?」

「…好きだから。私がひで君と一緒にいたいから」

「だったら…もう少しだけ、心を開いて。俺は大好きなともが辛そうにしているのを見ているのが嫌だ。俺らは隠し事はなしって約束だったよな?」

ひで君は繋いでいた手を外して私の両肩に手を置いた。そしてゆっくりと引きよせた。

ひで君の胸に顔を埋めている私。

お風呂を上がってからすぐに出てきたから、ひで君の体からは石鹸の香りがほのかにしてる。

隠し事はダメだって約束していたことを忘れていた私は、ゆっくりと話し始めた。



「ごめんね。ひで君のせいでもないんだ。私自身のせいなんだ」

「とものせい?」

「うん…さみしくなったんだ。でも、それを誰に言っていいのか分からなかったの」

私の背中をゆっくりと撫でてくれてるひで君の手の温もりが気持ちいい。

「俺に言えよ。何年いると思ってるんだよ。馬鹿だな」

「そうだね。私の事…一番知っているの…ひで君だものね」

強がって、甘えるのが苦手なのも。すぐに照れてしまうのも…全部分かっている。

私はおずおずと自分の腕をひで君の背中に回して抱きついた。



「そうか…さみしかったか。俺はそのさみしさを埋められるか?」

ひで君が耳元で囁く。

「分からない。けれども、一人じゃないって思えてるよ」

「それでいいんだよ。それで」

ひで君はそう言うと私に顔を上げてとおねだりをする。

「あの日からか?大人の前で子供らしさを失くしたのは」

「ひで君…知ってたの?」

「もちろん。そうせざると得なかっただろ?あの頃のお前は」

「うん」

「今からでも…子供らしくなってもいいじゃないか?」

「今から?でも…誰に?」

「俺に。もっと、思ったことを言って。馬鹿なことだっていいんだから」

「本当に?」

「あぁ。俺以外だともっとひどいけどな。ともは言う言葉を選んでから言うから」

完全にひで君に見透かされていた。

けれども、口にしないのが、ひで君の優しさだという事は十分分かってる。



「でも…言いにくいんだったら、ヘッドコーチに言うのはありにする」

そう言うと、ひで君は頭をボリボリと掻いている。

合宿前に髪の毛を切ったひで君は今は坊主頭だから掻く必要があるのかな?

ううん、違う。ひで君は照れているのとヤキモチを妬いているんだ。

ひで君のヤキモチは相当なもので、束縛を嫌う人なら離れて行くだろう。

クラブの皆もそんなひで君には呆れているらしいから。

私?それでも嬉しいの。だって…彼に必要とされているってことでしょう?



「また…ヤキモチ…勝手に妬いた。悪い」

「いいのよ。私にはそういう感情も少しだけ鈍いみたいだから。ちょうど良くできてるのよ」

私はひで君に微笑んだ。

「そっか。二人で足して割れば…ちょうどいいか。とも…お前って凄いな」

「そうかな?だって、完璧な人間っていないじゃない。大輔さんも言ってたよ?」

大輔さんというのは、こないだまでやっていたオリンピックに出た人。

一つ年上の美香ちゃんのお兄ちゃんのお友達で、違う拠点で普段は練習しているけど、

オリンピックに行く前に、うちのクラブに顔を出してくれた。

「そういえば、そうだったな。じゃあ、俺らは二人で完璧になろうぜ」

ひで君はそう言ってから私の額にキスをした。



「もう…ひで君」

「嫌か?こんな俺の事?」

「…大好き…だけど…」

私は恥ずかしくて、小声で返すのがやっとだった。

「だったら…受け止めてくれ…よ」

ひで君の顔が近付いてくるのを感じて、私は目を閉じた。



「俺もいるんだし、皆もいるからな。だからともはさみしくなる事はないんだぜ」

「うん、分かった」

「じゃあ…俺を心配させたともにはおしおきかな」

とも君が意地悪くニヤリと笑った。すごく…すごく嫌な予感がする。

「簡単だからさ。俺にキスして」

言われた瞬間に顔の火照りを意識した。

「早くしないと、消灯時間になっちゃうぜ」

さり気なく、私をひで君が煽っていく。でもその顔が楽しそうでむかついてくる。

私はひで君の頬にキスをした。

「なんだ。そこか。本当はこっちにして欲しいのにな」

ひで君は人差し指でひで君の唇を指していた。

「キスはしたんだからいいでしょ?もう!!」

私はくるりと向きを変えて立ちあがってから帰ると言って歩き出す。



「えぇ?俺…置き去りな訳?」

「少し惚れ直したけど…訂正する。愛すべきお馬鹿さん…帰らないの?」

私はひで君に手を差し出す。もうそろそろ消灯時間になるはずだ。

「そうだな。まぁ、約束は守ってもらおうな」

ひで君が私の手を取って宿舎に向かって走り始めた。



大丈夫だよ。私…もうさみしくないよ。ありがとう…ひで君。

hs_title's様 ヒトリの夜に10のお題より

次はゆう君の場合

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