Parallel ふぅん、ヤキモチっておいしくないんだ ver義人
side倫子
「じゃあ、本屋さんの前で待ってるね」
「掃除が終わったらダッシュで行くから…。本屋の後に寄り道しようぜ」
「うん、いいよ。じゃあ…放課後ね」
朝の学校に向かう路線バスの中での会話。
駅前で友達を見つけられなかった義人君となお君と私でバスに乗っていた。
「分かってるよ。それじゃ、またな」
駅に近い場所に義人君の学校があるから、義人君が先にバスから降りる。
バスから降りた義人君を見つけて私は手を振った。
いつもと変わらない、いつもと同じ光景のはずだった。
「本屋ってなんだ?ちい?」
「現代文の課題の為に一緒に本を買うんですよ。なお君は千世さんから本を借りたっていってたでしょう?私は買うんです。来年とも君が貰ってくれるって言うからね」
「智の奴は。まぁ、そういうことなら仕方ないな。噂になりかねないがいいのか?」
なお君は不安そうに私を見る。
「私と義人って一応…従姉妹の子になるんですよ。あまり公言していないですが」
「えっ、お前らって親戚だったんだ」
「えぇ。母がいるころは一緒に泊ったりしてましたよ」
「噂になろうが関係ない…か」
「関係ないって言う表現は好ましくないですよ。なお君」
私はなお君を窘める。地元の人間なら皆知っていると思っていた。
どうやら私の認識は間違っていたようだ。
「だったら、楽しんでこいな」
「うん、なお君もね」
私達は取りとめのない話をするのだった。
放課後、いつもより早めに私はバスに乗れた。
まだ、日差しが強いから本屋の廂の中で私は義人君を待っていた。
午後4時。アスファルトは暑さを吸収して融けてしまいそうだ。
「来るまで読んでいてもいいよね?」
私は学校の図書館で借りた本を取り出す。
本屋の壁に寄りかかりながら、私はページをめくりだす。
暑いんだけども、本を楽しめるこの瞬間が好きだ。
彼が来るまで私はこの空間を楽しもうと思っていた。
「あれっ?君ってさ…」
いきなり、肩を掴まれて一方的に話をされる。
制服は義人君と同じ高専の制服を着ている男の人…私は知らない。
「あのぉ…どこかで?」
「忘れちゃった?6月に部活で練習試合に行った時に会ったんだけども…保健室の場所を聞いたの…忘れた?」
彼にそう言われておぼろげながら思い出した。
確か、出血した人をバレー部の顧問の先生に頼まれて保健室まで連れて行ったんだっけ。
「そうそう、アレは俺ね。思い出してくれたんだ?」
「もう大丈夫ですか?」
あの怪我からは1ヶ月経っているからもう問題はないだろう」
「気にしてくれるんだ。嬉しいなぁ。今日は何をしているの?」
「今日はえっと…幼馴染と待ち合わせてて…もうすぐ来るんです」
「それって…彼氏?」
彼は一方的に私に聞いてくる。私はその対応に嫌になりつつあった。
早く義人君来ないかなぁ…そんな事を私は考えていた。
side義人
「やっべぇ…あいつ待ってるよな」
俺は駅に向かって走り出した。途中で同じクラスの奴が俺に聞く。
「駅まで走るのなら、後ろに乗るか?」
「助かる。悪いな」
俺はそいつの好意に有難く受けることにした。
これであいつを待たせる時間が短くなる。ホッと胸をなでおろした。
「なんだ?どこかに行くのか?」
「そこまでではないが、本屋で待ち合わせてて…」
「幼馴染で片想いの相手のちいちゃんか…青春だねぇ」
自転車を漕いでいるクラスメートに思い切りからかわれる。
「おまっ、ちいを見る気なんだろう?ちいの前では絶対言うなよ」
「はいはい。拝ませて貰って挨拶くらいはいいだろ?長い付き合いになるんだからさ」
そう言われると俺は何も反論ができなかった。
本屋の側の交差点側で下ろして貰って、俺はダッシュで本屋に向かおうとした。
そこで目にしたのは、彼女を口説いている同じクラスの永山だった。
そういえば、先月部活でS高に行って女神がいたって叫んでいたなぁ。
あいつの言う女神って…もしかして…ちいのことなのか?
ちいは表情を硬くしているから、必死に断っているんだろう。
でもしつこい事で知られている永山の事だ。すんなり撤退するわけがない。
俺はどうすればいいか、途方に暮れた。
「どうした?義人?永山が口説いている女って…もしかして?」
「あぁ、そのまさかだ。彼女がちいだよ」
俺はクラスメートにとりあえず話しかけた。
「永山…しつこいからなぁ。どうしようか?」
「とにかく、あの場から連れ出すしかないだろう?」
「そうだな、状況によっては俺も助けに行くからな」
「あぁ、よろしくな」
俺は深呼吸を一つした。永山に対してどす黒い感情が起こっていた。
それが何であるのか、俺はまだ分からなかった。
「だあれだ?」
俺は永山によって視界が限られてるのを利用してちいの目を手で隠した。
「義人君でしょ?遅いよ。暑かったからアイス食べたいなぁ」
俺の意図する事を瞬時に察したらしい彼女はいつもはしないおねだりを始めた。
それから、俺は塞いだ手を外して肩を抱き寄せる。
「悪かったよ。これでも急いで来たんだから。本は買ったか?」
「まだ…でもアイスが先じゃ…ダメ?」
「はいはい、分かりましたよ。お姫様」
「内…お前なにしてんだよ。彼女は幼馴染を待ってるって…」
「俺がその幼馴染だけど、何か?それに家の一族のお姫様に勝手に手を出すなよな?」
俺はにこやかにほほ笑んで永山に向かって言う。
彼女がお姫様という表現はあながち間違っていない。
少なくても、両親がなくなってからの彼女を俺ら…従姉弟達は俺らなりに守ってきたつもりだ。
「ふぅん、大人しそうに見えて、意外なものだな」
永山はそんな捨て台詞を吐いていなくなった。
ちょっと強引に処理した事は俺のミスだ。
「悪い、ちい。もっと大人の対応をしておけば良かった」
「義人君、あれで良かったと思うよ。しつこかったから。ありがとね」
優しい微笑みで俺を見つめてから。俺の頭を撫でる。
他の女だったら、起こってしまうだろうけど、彼女にされるともっとして欲しいと望んでしまう俺がいる。
「さあ、アイスでも食べに行きますか?お姫様」
「だから…お姫様じゃないってば」
「いいの。俺ら従姉妹のお姫様なんだから」
俺は彼女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
彼女はひどいって言いながら手櫛で髪を整えていた。
「義人…大丈夫か?」
「あぁ、悪かったな。ちい、こいつ同じクラスの佐山な」
「初めまして!!お友達になってもらえます?」
「義人君…」
「佐山は大丈夫。俺も一緒にいるから」
彼女は不安そうに俺を見る。永山のことがあってすぐだもんな。
ほとんど男子高な俺らの学校だと、こういうことがないと女の子との接触がない。
佐山の対応次第によっては、これからの俺の立場の問題があった。
「分かった。じゃあ…お友達から」
「大丈夫。いきなり義人のお姫様を攫う事はないからね。じゃあな」
そういうと佐山は自転車で帰ってしまった。
「いいお友達だね。ありがとうって言ってね。私を助けようとしてくれたんだよね」
「何だ…分かってたんだ。言っておくよ。さあ…行くぞ」
俺たちは駅を挟んだデパートを目指して歩き出した。
「じゃあ…食べようか」
デパートの屋上のベンチに俺たちは腰掛けた。
手にはイタリアンジェラートのカップが一つ。
彼女はアイスが好きだけども、一つ食べきる事が出来ないからだ。
昔から、一緒の時は分けあって食べていた。今は…少しだけ意識してしまう。
「うん、オレンジのアイスで良かった?」
「いいんだよ。お前が食べたいのを食べたらさ」
俺がそう言うと彼女はスプーンで掬って一口食べた。
「おいしいよ。ほらっ、義人君も」
彼女は俺に一口分掬って口元に運んだ。
人の目が気になるけれども融けてしまうアイスには罪はない。
「サンキュ。さっぱりしてて上手いな。また今度来ような」
「うん。そうだね…。義人君、本屋さんで見た時に凄く怖かった」
「俺が?どうして怖いんだ?」
アイスと互いに食べあいながら、おもむろに彼女が口にした。
「私の知らない…男の人に見えた。ただ…それだけ」
そう言うと、彼女は空になったカップを持ったまま俯いてしまった。
俺が怖く見えた時…俺が永山に見せた敵意に見せた表情の時か。
もしかして…あれがヤキモチってやつなのかもしれない。
ヤキモチっておいしくねぇんだな。でも彼女に知られたのも恥ずかしい。
「あぁ…アレな。どうやら、俺ヤキモチを妬いていたみたいだ」
「ヤキモチ?」
「あぁ、うまくねぇぞ。ちいも妬いてみるか?ヤキモチ?」
「知らないの?私…すごく独占欲が強いのに。ヤキモチ妬きなの」
彼女からされる告白に俺は驚く。
彼女は何に対してヤキモチを妬くんだろう?ヤキモチを妬く必要はないはず。
何に彼女がヤキモチを妬くのか分からなかった。
「義人君の学校の人…皆に。私の知らない義人君を知っているから」
彼女は俯いたまま呟くように俺に言う。彼女が知らない俺ってあるか?
「それって、どういう意味なんだ?」
俺は都合のいいように解釈するのが正しいのか分からないから彼女に問いかける。
「それは…私が義人君が好きってこと。義人君が横にいないのは寂しい」
彼女は俯くのを止めて俺に方に向きなおして目を見て告げた。
よしとくんがすき…コレって一人の男として意識しているってことか?
だったら…嬉しい。すげぇ嬉しい。どうしよう。
一気に頭が混乱してしまう。
「俺も…ずっと前から好きだった。一緒にいるのが当たり前だと思ってた。これからは従姉妹の子ではなくって一人の男として側にいていいのか?」
俺はそう告げると、彼女を俺の腕の中に閉じ込めた。
「うん。お願いだから、一緒にいられるときはずっと側にいて。私だけの王子様」
彼女はそういうと、俺の胸におでこをくっつけた。
鼻をくすぐるように彼女の甘い匂いがする。
「ちいの匂いって甘い。お前はどこまで…甘いのかな」
俺は囁くように彼女に問いかける。
「そんなの分からないよ」
「だったら…味見させてくれよ。上を向いて」
俺は彼女に上を向く様に促す。
上を向いた彼女の頬を両手で包んでから俺はゆっくりと顔を近づける。
最初はおでこに、瞼に、鼻に細かいキスを落としていく。
それから、彼女の唇に自分の唇を合わせた。
始めて合わせた唇は凄く甘く、それとオレンジの香りがした。
「ちいは…甘い。甘くてとけちゃいそうな位」
「じゃあ…一緒にとけちゃおうか?」
「そうだな、一緒にとけようか」
囁き合って俺たちは再びキスをするのだった。
俺の事は親戚で幼馴染の一人だとずっと思っていると思ってた。
けれども、現実は違った。彼女は俺を男として見ていた。
俺たちは学校が違うから、互いにヤキモチを妬きあうだろう。
その度に今日の様に仲直りをしたら、もっともっとハッピーになるのかもしれない。
「大好きだぞ。俺だけを見てろよ」
俺は彼女をきつく抱きしめた。
「義人君がいれば…義人君を愛せれば私はもう…何もいらないの」
ほんの少し頬を染めて、彼女が俺に想いを告げる。その問いに俺は答える。
「あぁ、ずっと一緒な。共に命が尽きるまで…約束な」
何度目になるのか分からないキスを交わした。
約束を交わしたキスは甘いけれども…少しだけ涙の味がした。
彼女の涙に誓う。彼女の悲しみの涙だけは流させないと。
ゆっくりと、俺達のペースで歩いていこう。共に白髪になるまで…一緒に。
ヤキモチ妬きは…どうやらちいだった模様です。
好きすぎる義人は、勢い余ってしまうのではないでしょうか?
最後になるあの人は、どんなヤキモチ妬くんでしょう




