積み荷
【峠の朝】
勝利から二日後の朝、ヴォルグ渓谷は工事の音で目を覚ました。
削岩機の唸り。杭を打つ音。資材を下ろすクレーンの軋み。峠の南斜面――バルドアの兵たちが命を懸けて守っていた山の中腹に、あっという間にプレハブの建物が並び、鉄条網が張られ、照明塔が立った。
「……早すぎだろ」
朝食の列で、アシュが山を見上げたまま言った。
「戦闘が終わって、まだ二日だぜ。普通、道の啓開だけで一週間はかかる」
「図面が最初からあったみたいな速さよね」
リズがスープをすすりながら答える。
「うちの田舎じゃ、橋一本直すのに半年かかったけど」
ネロは何も言わず、端末で工事車両の数を数えていた。その眉が、数えるほどに寄っていく。
そこへ、伝令の兵が駆けてきた。
「黒翼分隊、指揮官殿。特務課より新規命令です」
カラムが封筒を受け取り、いつものように全員の前で封蝋を割る。命令書に目を走らせた彼の眉が、途中で、ぴくりと動いた。
「……任務変更だ。帰還は延期。俺たちはこれより五日間――第一採掘区の警備につく」
沈黙が落ちた。
「警備ぃ?」
最初に声を上げたのは、やはりアシュだった。
「おいおい、うちは特殊工作部隊だぞ。戦線こじ開けるのが仕事だろ。なんで石掘りの見張りなんだよ」
「命令書には理由まで書いてねえよ」
カラムが書面を畳んだ。折り目に沿って一度、それから、もう一度。
リヴィアは、その手を見ていた。三日前の作戦室で見たのと、同じ畳み方だった。
「発令元は……特務課経由、空挺部総括本部。護衛対象は採掘資材と、搬出貨物」
「空挺部……」
勲章だらけの、あの初老の男の顔がよぎった。レイリット・バンス。空挺部総括隊長。あの列車で、セリウスが殺そうとした男。
「ま、命令は命令だ。飯食ったら移動するぞ」
カラムはそう締めくくった。食事のあいだ、彼は一度も山から目を離さなかった。
【第一採掘区】
採掘区は、山の傷口だった。
バルドアの民が「神」と呼んだ山の中腹が、幅二百メートルにわたって削り取られ、灰色の岩肌が剥き出しになっている。
その中央に、黒い筋が走っていた。
鉱脈だ。黒曜石に似ている。似ているだけで、違う。光が表面で反射しない。吸い込まれるように、沈む。降りしきる雪が、その黒い筋の上にだけ積もっていなかった。
「……なんですかね、あれ」
ネロが計器を向けた。途端に端末が悲鳴のような電子音を上げる。
「わ、わわっ……計器が、数値が暴れて……こんな波形、見たことない。あ、いや――」
ネロが顔を上げた。
「一度だけ、あります。稜線の中央壕。あの鉛の台座に載ってた、砕けた黒い結晶……あれと、同じです」
リヴィアは、鉱脈に一歩近づいてみた。
三歩目で、分かった。
皮膚の下で、魔力がざわりと逃げた。熱いものに触れる寸前の手が勝手に引っ込むように、体の中のものが、あの黒い石から距離を取ろうとしている。
試しに右手へ魔力を灯す。
手の甲の四本の線が、揺れた。浮かんでは薄れ、また浮かぶ。蝋燭の火が風に嬲られるみたいに。
(……この感じ)
知っている。十年前。空から黒い箱が降ってきた、あの日の空気。魔法が消える、ほんの少し前の――産毛が逆立つような、この予感。
「――そこ! 鉱脈に近づくな!」
鋭い声が飛んだ。
振り向くと、見慣れない軍服の男が立っていた。帝国軍のカーキではない。濃い灰色の、記章の少ない制服。腕に空挺部の章。その後ろでは、白い防護服の技術者たちが、黒い石を鉛らしき箱に一つずつ収めている。
「警備部隊は外周のみだ。採掘区画への立ち入りは、許可章のある者に限る」
「これは失礼。……ちなみに、何を掘ってるんで?」
カラムが世間話の調子で聞いた。
「あんたが知る必要はない」
男はそれだけ言って背を向けた。
アシュが小声で「感じ悪……」と呟き、リズが肘でつつく。
外周の巡回路へ戻る途中、ネロが端末をいじりながら、妙に静かについてきていた。
「どうしたの」
「あ、いえ……あの、警備の五日で暇だったので、搬出台帳を見せてもらってたんです。黒い石じゃなくて、普通の魔鉄鉱の方の」
彼は言いにくそうに眼鏡を押し上げた。
「……リヴィアさん。第七の歩留まり、どのくらいでした?」
十年、その数字だけを書き続けた。
「……年による。最後の三年は、七十を切ってた」
「ここのは、九十四です」
足が、止まりかけた。
「五年前の、帝国全体の平均が八十一。去年が、七十三でした」
ネロは端末を閉じた。
「僕、ずっと数字が下がってるのは技術の問題だと思ってたんです。掘り方が雑になったとか、深いところまで行きすぎたとか。……でも、この山のを見ちゃうと」
彼は、続きを言わなかった。言わなくても、同じ結論が二人の頭にあった。
――帝国の山が、痩せている。
巡回路の脇、資材置き場で、リヴィアは足を止めた。
削岩機の木箱が、山と積まれている。
その側面に、輸送用のステンシルが押されていた。
品名。数量。発送元、帝都第四工廠。
そして――発送日。
リヴィアは、日付を二度読んだ。
半年前。
バルドアの「襲撃事件」が起きて、開戦したのが半年前。この木箱の発送日は、その三週間前だった。
戦争が始まる前に、この山を掘る機械は、もう帝都を出発していた。
「……見たか」
いつの間にか、カラムが隣にいた。
彼は木箱を見ていなかった。まっすぐ前を向いて巡回路を歩きながら、口の端だけで言った。
「見たら、忘れろ。……いや」
一拍。
「忘れんな。ただし、誰にも言うな。俺が預かる」
⸻
外周フェンスの向こうに、その日も人影があった。
バルドアの民だ。避難民のキャンプから毎日誰かが歩いてきて、フェンス越しに山を見ている。小さな老婆がひとり、雪の中に立ったまま、もう二時間も動かない。
「毎日来るんですよ、あの婆さん」
警備の若い兵が困ったように言った。
「何するでもねえんです。ただ、立って、山を見てる。……声かけても、返事もしねえ」
老婆の手には、石を削った小さなお守りが握られていた。山の形をした、お守り。
リヴィアは、フェンスまで歩いた。
老婆から二歩離れた場所に立って、同じ方角を見る。削られた山肌。剥き出しの灰色。その中央を走る、雪の積もらない黒い筋。
老婆は、こちらを見なかった。
しばらくして、巡回路へ戻る。
「……声、かけたんですか」
「いいえ」
削岩機の音は、日が落ちても止まらなかった。
【夜襲】
三日目の夜。
峠の下の高原に均された臨時滑走路に、空挺部の大型輸送機が三機、翼を並べていた。鉛の箱――黒い石の「積み荷」――が、フォークリフトで次々と機体へ吸い込まれていく。照明塔の白い光の中を、雪が斜めに流れていた。
黒翼は、滑走路の外周に散って警戒に就いている。
『……なーんも起きないわね』
無線から、リズの気の抜けた声。
『起きなくていいんだよ、警備は』
『でもさカラムさん、変じゃない? 石を運ぶだけの仕事に、なんでうちみたいな――』
その言葉は、最後まで続かなかった。
燃料集積所が、爆発した。
夜が、真っ赤に裂けた。ドラム缶が火柱の中で次々と誘爆し、衝撃波が雪煙を薙ぎ払う。爆心の近くにいた地上整備員たちが、飛んでくる破片の雨に、なすすべもなく――
「――張ります!!」
ネロが、両手を地面に叩きつけた。
整備員たちの頭上に、淡い青の光が天蓋のように展開する。
直径二十メートル。継ぎ目のない、光の丸屋根。
鉄片が、燃えるドラム缶の破片が、その天蓋に当たっては滑り落ちていく。カラムの張る小盾とは、規模が桁違いだった。
「す、少しの間なら保たせられます! その間に中の人たちを――」
『了解。リズ、右から回せ! アシュ、火元に近づくな、燃料がまだ生きてる!』
カラムの声が無線を走る。混乱の中で、その声だけが恐ろしく落ち着いていた。
『敵はどこだ!』
『――いた。西フェンス、突破されてます! 人影……八、いえ十! 輸送機に向かってます!』
ネロの叫び。
照明塔が、狙撃で二本、続けて落とされた。滑走路の半分が闇に沈む。
その闇の中を、灰色の装束の影たちが雪を蹴って走っていた。顔は覆面。背に爆薬らしき背嚢。動きに、一切の無駄がない。
「二番機に取りつかれる!」
真っ先に反応したのは、リズだった。
「――飛ぶわよっ!」
風が、渦を巻いた。
彼女の体がふわりと浮き、コンテナの屋根を二歩で渡って、輸送機の主翼の上へ舞い降りる。機体の背では、覆面の二人が胴体に爆薬を据え付けようとしていた。
「それ、置いてかない?」
リズの両手から、短剣が二本放たれる。
短剣はまっすぐ飛び、敵が身を躱した瞬間、風を孕んでぐんと弧を曲げた。ブーメランのように背後から戻った刃が、爆薬の固定紐を断ち切る。爆薬が機体を滑り落ち、雪に埋もれた。
「なっ……」
「はい、もういっちょ」
着地したリズが短剣を振り抜く。刃は届かない。届いたのは、風だった。三日月形の風の刃が、覆面の一人を主翼から薙ぎ払う。
もう一人が斬りかかるのを、彼女は風に乗って後ろへ跳び、笑った。
「うちの機体に、傷つけないでくれる?」
地上では、アシュが吼えていた。
「こっち見ろや、コソ泥ども!!」
二丁の銃が火を噴く。
魔導弾の威力ではなかった。銃身に沿って彼の魔力が走り、装薬の火を膨らませ、放たれる弾のひとつひとつが小さな砲弾と化している。覆面たちが遮蔽に使っていた資材の山ごと、着弾が吹き飛ばした。
「ちっ……そこも駄目、あそこも駄目……撃てねえ場所ばっかかよ!」
燃料。弾薬。あの黒い石の積み荷。派手に撃てば味方ごと吹き飛ぶものだらけの戦場だった。
なら、と彼は狙いを変えた。
退がっていく覆面の一人。その腰の雑嚢――手榴弾の膨らみ。
「――爆ぜろ」
指を、鳴らす。
彼の魔力が、遠隔で「火」を生んだ。雑嚢の中で信管が焼け、覆面は悲鳴とともにそれを投げ捨てる。雪原に、火柱がひとつ。
「よし。次」
カラムは、動かなかった。
滑走路の中央、管制小屋の陰に立って、戦場全体を見ている。右手の先には拳大の光弾がひとつ浮かんでいた。
波動弾。ごく普通の攻撃魔法。四刻の隊員たちの派手な魔法に比べれば、威力も規模も慎ましいものだ。
彼はそれを、一発ずつ、置くように撃った。
輸送機の車輪を狙って屈んだ敵の、その手元の工具へ。整備員に銃を向けた敵の、その銃身の付け根へ。仲間の死角から迫る影の、踏み込もうとした膝の一寸先の氷へ。
外さない。急所も狙わない。敵が「次にしようとしていたこと」だけを、正確に潰していく。
手榴弾が転がってくれば、掌ほどの小さな防壁を斜めに生やす。爆発は防がない。逸らす。破片は誰もいない雪原へ。
燃え広がる火が燃料車に迫れば、指先をくいと曲げる。燃料車が、見えない手に引かれてするすると火線の外へ滑り出た。
「化け物みたいな威力は、うちの若いのが出す。俺はな――」
彼は新しい波動弾を指に灯した。
「隙間を埋めるだけだ」
その隙間が塞がるたび、戦場がひとつずつ、黒翼の形に整っていった。
【黒い閃光】
リヴィアは、走っていた。
視界の端で、覆面たちの動きが途中から変わったことに気づいていた。
輸送機への攻撃は、半分は陽動だ。本命は――滑走路の端、離陸準備を終えた一番機。
そこへ、ひとつの影だけがまっすぐ向かっている。
小柄な影だった。雪の上を、重さを感じさせない足取りで駆けている。腰には、細身の剣。鞘に飾りはない。
(速い――!)
距離が、詰まらない。
『リヴィアさん! 付与、行きます……っ!』
無線と同時に、体が淡く光った。ネロの強化魔法。脚に力が漲り、一歩の伸びが変わる。
「――ありがとっ」
雪を蹴る。二歩、三歩で、影の背中が近づいた。
影が振り向きざま、抜き放った。
鋼と鋼が、闇の中で噛み合った。
重い。小柄な体格からは信じられない、鋭く重い斬撃。
リヴィアはレイピアで受け流し、突きを返す。影は最小限の体捌きでかわし、返す刃で袈裟に来る。二合、三合、四合。
(……この人、強い)
軍隊の型ではない。もっと古い、研がれた剣術。しかも一切、声を出さない。呼吸の音すら聞こえない。
影が、ふっと後ろへ跳んだ。
距離を取りながら、その手が腰の背嚢から黒い塊を抜く。信管の火が、闇に赤く点った。
狙いは、リヴィアではなかった。
一番機。黒い石を満載した、機体の腹。
投げられた。
(――させない)
リヴィアは踏み込んだ。息を止める。切っ先に、闇が凝る。
「黒閃」
黒い線が、夜を裂いた。
宙を飛ぶ爆薬が信管ごと両断され、二つの無力な塊になって雪に落ちる。
覆面の影が、そこで初めて止まった。
構えたまま、微動だにしない。覆面の奥の目が、リヴィアを――正確には、彼女の剣に残る黒い残光を見つめていた。
一秒。長い、一秒だった。
やがて影は懐から小さな笛を出し、短く三度吹いた。
それが合図だった。
戦場のあちこちで、覆面たちが一斉に戦闘を切り上げる。驚くほどの統率で、負傷した仲間を二人がかりで担ぎ上げ、倒れた者さえ残さず回収して、闇の中へ退いていった。
「あっ、おい、待ちやがれ……!」
アシュの声が追うのを、カラムの声が制した。
『深追いするな。夜の雪山は、向こうの庭だ』
最後に退いた小柄な影は、闇に消える寸前、もう一度だけ振り返った。覆面ごしの視線が、リヴィアを射る。
消えた。
【燃える石】
敵は、何も残さなかった。
死体も、装備も、血の跡さえ、退き際に雪をかけて消していった。残ったのは乱れた足跡と、それを埋めていく降りやまない雪だけ。
「……プロですね。軍隊レベルの、統率」
ネロが震える声で言った。
「所属を示すものが、何ひとつない。こんなの、ただの野盗じゃ絶対に……」
「報告書には『所属不明の武装集団』と書く。それ以上は書くな。……いいな」
カラムの声には、有無を言わせない硬さがあった。
「おい! 火が! 三号トラックに火が回ってるぞ!!」
叫び声に、全員が振り向いた。
最初の爆発の飛び火だった。積み荷を待っていたトラックの一台、幌の下の鉛箱が火に包まれている。
消火班が駆け寄り、魔導式の消火装置を向けて――止まった。
「……出ない! 消火魔法が、出ません!!」
トラックの周囲、半径十メートル。そこだけ、魔法が死んでいた。
燃える鉛箱の中で、黒い石が赤熱している。石が焼けるのに合わせて、目に見えない波が明滅しながら滲み出していた。
リヴィアは、その縁に立っていた。
体の中の井戸が、浅くなる。深くなる。また浅くなる。あの稜線の灰色の波と、同じ感触。
(……ああ)
彼女は、理解してしまった。
誰も口に出さない。技術者たちは血相を変えて人払いをし、兵たちはスコップで雪を掛けて火を消している。
この黒い石が、何に使われるものなのか。
十年前、エルデナの空から降ってきたあの黒い箱の心臓が、何でできていたのか。
雪をかけられた石が、じゅう、と音を立てて黒に戻っていく。
ネロだけが離れた場所で、計器の記録を無言で見つめていた。その顔は、紙のように白かった。
【三行】
五日後、黒翼は帝都に帰還した。
中央駅のホームに降りた瞬間、リヴィアは少しだけ眩暈がした。暖かい。うるさい。明るい。
新聞売りの少年が声を張り上げている。
「歌劇場の火災、原因は照明の魔導管! 主演女優、涙の会見ですよぉ!」
一面は、それだった。
リズが売店で買った新聞を、皆で覗き込む。ヴォルグ渓谷の勝利は、三面の下の隅にあった。
『北部戦線、ヴォルグ渓谷ニテ我ガ軍勝利。戦線ハ前進セリ』
三行だった。
半年の膠着も、一万人の突撃も、凍傷で失われた指も、そばかすの少年も、フェンスの前の老婆も。全部で、三行。
「……ま、いつものことよ」
リズが新聞を畳んだ。
「帰ったら何食べる? 私、揚げパン。絶対揚げパン」
「俺は肉」
「ぼ、僕は、あったかいお風呂に入りたいです……」
雑踏が五人を呑み込んでいく。すれ違う人々は、誰も黒い軍服を振り返らなかった。
この街にとって、北の戦争は今日も遠い天気の話だった。
【二重底】
その夜、軍施設の執務室。
ノックが二回。返事を待たずに、カラムが入ってきた。
「よう。生きてるか、少佐サマ」
「おかげさまでな。……座れ」
グレイは書類の山から顔を上げた。
カラムはソファにどかりと座ると、前置きなしに話し始めた。削岩機の発送日のこと。黒い鉱石と、燃えた時に起きたこと。夜襲の連中の練度と、退き際のこと。歩留まりの数字のこと。
グレイは、一度も口を挟まずに聞いた。
「……ネロの計測データだ。表の報告には載せてない」
カラムが、小さな記録媒体を机に置く。
グレイはそれを受け取ると、机の一番下の引き出しを開けた。書類を上げ、底板を外す。二重底の奥に、媒体が収まった。
「発送日、三週間前か」
「ああ。……襲撃事件の三週間前に、山を掘る機械が発送済みだ。おかしな話だよな。帝国は、襲撃されることも、勝つことも、最初から知ってたみてえだ」
「…………」
「なあ、グレイ」
カラムは声を落とした。
「バルドアの襲撃事件ってのはよ。……本当に、あったのか?」
グレイは、すぐには応じなかった。窓の外では、グランドアーカムの白い塔が夜の底で光っている。
「……調べる。お前は、隊を頼む」
「はいよ。……ああ、それと」
カラムは立ち上がりかけて、思い出したように付け加えた。
「新入りの嬢ちゃん、いい隊員だよ。よく見て、よく動く。……ちっとばかし、一人で背負いすぎるがな」
「……そうか」
「誰かさんに、そっくりだ」
カラムはにやりと笑って、部屋を出て行った。
一人になった執務室で、グレイは閉じた引き出しを見下ろした。
十年かけて集めてきた、この国の歪みの記録。その一番新しい頁に、今夜、名前のない黒い石のデータが加わった。
護衛任務の発令元――空挺部総括、レイリット・バンス。
積み荷の行き先は、命令書のどこにも書かれていなかった。




