第9話 古代魔法の覚醒
ブラックガーディアンの拳が迫る。
巨大な岩が飛んでくるような圧力だった。
普通なら逃げる。
いや、逃げることすらできない。
だが。
レインは動かなかった。
胸の奥で《始原の魔導書》が脈打つ。
熱い。
まるで心臓が二つあるようだった。
頭の中に無数の文字が浮かぶ。
古代文字。
術式。
魔力回路。
そして、一つの魔法が完成する。
「レイン!!」
リリアの叫び声。
その瞬間。
レインは静かに言葉を紡いだ。
「――《蒼雷の壁》」
青白い魔法陣が展開される。
空中に現れた巨大な紋章。
複雑な古代文字が輝く。
次の瞬間。
轟音が響いた。
ブラックガーディアンの拳が魔法陣へ激突する。
ドォォォン!!
衝撃波が森を揺らす。
木々が大きくしなる。
しかし。
拳は止まっていた。
「なっ……!?」
リリアが目を見開く。
ブラックガーディアンの攻撃を防いでいる。
しかも完全に。
レイン自身も驚いていた。
防げるとは思っていなかった。
だが。
身体の奥から力が湧いてくる。
まるで魔法そのものが自分を支えているようだった。
「これが古代魔法……」
呟く。
するとブラックガーディアンが初めて後退した。
一歩。
また一歩。
赤い瞳がレインを見つめる。
「適性確認」
低い声が響く。
「継承者候補として認定」
レインは眉をひそめた。
候補?
まだ認められていないということか。
その時。
ブラックガーディアンの身体が光り始めた。
黒い装甲が赤く染まる。
空気が震える。
嫌な予感がした。
「まさか……!」
リリアの顔色が変わる。
「第二段階だ!」
「第二段階?」
聞き返した瞬間。
ブラックガーディアンの背中から巨大な魔力が噴き出した。
轟音。
そして。
全身の装甲が変形する。
身体はさらに大きくなり、赤黒い光を放ち始める。
威圧感が何倍にも増した。
「おいおい……」
レインの額に汗が流れる。
強くなった。
誰が見ても分かるほどに。
「これ本当に試練か?」
「たぶん古代文明の基準なんだろうな……」
リリアも引きつった笑みを浮かべる。
全然笑えない。
⸻
次の瞬間。
ブラックガーディアンが消えた。
「え?」
違う。
速すぎて見えなかっただけだ。
気付いた時には目の前にいた。
「っ!」
レインは反射的に魔法陣を展開する。
しかし。
バキィィィン!!
魔法陣に亀裂が入った。
「まずい!」
今度は防ぎきれない。
その時だった。
リリアが飛び込む。
「レイン!」
剣が閃く。
ブラックガーディアンの腕を弾き、わずかに軌道を逸らした。
衝撃で二人とも吹き飛ぶ。
地面を転がる。
痛い。
だが生きていた。
「大丈夫か!?」
リリアが叫ぶ。
「なんとか!」
立ち上がる。
そして気付く。
一人では勝てない。
古代魔法があっても。
リリアの力が必要だ。
その時。
ブラックガーディアンが再び動こうとする。
だがレインの頭の中で新たな術式が完成した。
今までより複雑。
今までより強力。
そして。
確信があった。
これなら届く。
「リリア!」
「何だ!」
「十秒くれ!」
彼女は即座に理解した。
細かい説明はない。
それでも頷く。
「任せろ!」
剣を構える。
そしてブラックガーディアンへ突っ込んだ。
レインは目を閉じる。
魔力を集める。
森の空気が震える。
地面に巨大な魔法陣が広がる。
青白い光。
古代文字。
圧倒的な魔力。
リリアですら振り返るほどだった。
「すごいな……」
思わず呟く。
その間も必死に時間を稼ぐ。
一秒。
二秒。
三秒。
ブラックガーディアンの猛攻。
剣で受ける。
避ける。
弾く。
限界が近い。
そして十秒目。
レインが目を開いた。
瞳が青く輝いている。
「できた」
静かな声だった。
しかし、その場の空気が変わる。
ブラックガーディアンも動きを止めた。
まるで待っていたかのように。
レインは右手を掲げる。
そして唱えた。
「――《蒼天雷槍》」
空が光る。
雲ひとつないはずなのに。
巨大な雷が天から降り注いだ。
それは一本の槍となり。
真っ直ぐブラックガーディアンへ向かう。
轟音が森全体を包み込んだ。
第10話 試練の終わり へ続く。




