第8話 黒鎧の魔物
森を揺らす咆哮が響いた。
レインは思わず耳を塞ぐ。
身体が震える。
恐怖だった。
理屈ではない。
本能が叫んでいる。
――逃げろ。
目の前にいる存在は危険だと。
「レイン!」
リリアの声で我に返る。
彼女は剣を構えていた。
だが、その表情にも余裕はない。
「知ってるのか?」
レインが尋ねる。
リリアは唇を噛む。
「本で見たことがある」
「たぶん……《ブラックガーディアン》だ」
聞いたことのない名前だった。
しかし、その名前だけで十分だった。
危険な存在なのだと理解できる。
「古代遺跡を守る番人って言われてる魔物だ」
「Aランク冒険者でも苦戦する」
レインは顔を引きつらせた。
今の自分たちでは勝てない。
そう思った瞬間だった。
ブラックガーディアンが動く。
地面が砕ける。
次の瞬間には目の前にいた。
「速っ!」
リリアが咄嗟に剣を振るう。
しかし。
ガキィィン!!
まるで鉄を叩いたような音。
刃が通らない。
ブラックガーディアンの拳が振り下ろされる。
「くっ!」
リリアは横へ飛ぶ。
直後。
地面が大きく陥没した。
もし直撃していたら終わっていた。
「リリア!」
レインは魔力を集中させる。
頭の中に古代魔法の知識が浮かぶ。
雷。
風。
炎。
様々な術式。
その中から一つを選ぶ。
「《ライトニング・アロー》!」
青白い雷が放たれる。
轟音。
しかし。
ブラックガーディアンは腕で受け止めた。
爆煙が広がる。
やがて煙が晴れる。
そこにいた魔物は無傷だった。
「嘘だろ……」
レインは息を呑む。
シャドウウルフを一撃で倒した魔法だ。
それが通じない。
格が違う。
⸻
ブラックガーディアンがレインを見た。
赤い瞳。
まるで品定めするような視線。
そして。
突然動きを止めた。
「……?」
リリアも違和感を覚えたらしい。
魔物は攻撃してこない。
ただレインを見ている。
すると。
低い声が響いた。
「継承者……」
レインは目を見開く。
「喋った?」
魔物が言葉を発した。
ありえない。
普通の魔物ではない。
ブラックガーディアンはゆっくり近づく。
「始原の魔導書……」
「継承者を確認……」
レインの背筋が凍る。
魔導書を知っている。
つまり。
この魔物は古代文明と関係がある。
「試練を開始する」
その言葉と同時に。
ブラックガーディアンの身体から膨大な魔力が溢れ出した。
森の木々が揺れる。
空気が震える。
「試練?」
レインは思わず聞き返す。
だが返事はない。
魔物は再び構えた。
「勝利せよ」
「継承者」
その瞬間。
レインは理解した。
これはただの戦いではない。
試されているのだ。
古代魔法の継承者として。
その資格があるのかどうかを。
「レイン!」
リリアが叫ぶ。
「来るぞ!」
ブラックガーディアンが地面を蹴った。
圧倒的な速度。
しかし。
レインの中で何かが変わり始めていた。
始原の魔導書が熱を帯びる。
頭の中に新しい術式が浮かぶ。
今まで見たこともない魔法。
古代魔法の真の力。
そしてレインはゆっくり手を前へ突き出した。
「これが……」
魔力が渦を巻く。
青白い光が集まる。
「古代魔法――」
ブラックガーディアンの拳が迫る。
だがレインは逃げなかった。
真っ直ぐ前を見据える。
そして初めて。
本当の意味で古代魔法を発動しようとしていた。
第9話 古代魔法の覚醒 へ続く。




