第10話 試練の終わり
轟音が森を揺らした。
天から降り注いだ巨大な雷槍。
《蒼天雷槍》。
古代魔法によって生み出された一撃は、真っ直ぐブラックガーディアンへと突き刺さった。
ドォォォォォン!!
爆発。
眩い閃光。
衝撃波が周囲の木々をなぎ倒す。
レインは腕で顔を守った。
リリアも目を閉じる。
しばらくして。
ようやく光が収まった。
土煙がゆっくりと晴れていく。
「倒した……か?」
レインは息を切らしながら前を見る。
魔力の消耗が激しい。
立っているだけでも辛かった。
やがて視界が開ける。
そこには。
ブラックガーディアンが立っていた。
「っ!?」
無傷ではない。
全身の装甲には亀裂が走っている。
肩の一部は砕けていた。
だが。
まだ倒れていない。
「そんな……」
リリアが呟く。
あれほどの魔法だった。
それでも立っている。
規格外だった。
しかし。
ブラックガーディアンは攻撃してこなかった。
ゆっくりとレインへ近づく。
重い足音。
だが敵意は感じない。
やがてレインの前で止まる。
赤い瞳が見つめてくる。
静かに。
そして。
「試練終了」
低い声が響いた。
レインは目を瞬かせる。
「え?」
ブラックガーディアンは片膝をついた。
まるで騎士が主へ忠誠を誓うように。
「継承者認定」
「古代魔法適合率九十八パーセント」
「資格を確認」
レインもリリアも言葉を失った。
何が起きているのか分からない。
ブラックガーディアンは続ける。
「汝に資格あり」
次の瞬間。
胸の中心から光が現れた。
青白い光。
それはゆっくりとレインの身体へ吸い込まれていく。
頭の中に大量の知識が流れ込む。
古代文明。
魔法。
歴史。
そして――
世界の危機。
「うっ……!」
レインは膝をついた。
あまりの情報量だった。
見知らぬ景色が浮かぶ。
巨大な都市。
空を飛ぶ船。
無数の魔法陣。
そして。
燃え上がる世界。
黒い影。
崩れ落ちる文明。
絶望。
「なんだ……これ……」
息が苦しい。
まるで過去を見せられているようだった。
やがて光が消える。
静寂。
ブラックガーディアンは立ち上がった。
その身体は少しずつ崩れ始めている。
「役目……完了」
声が小さくなっていた。
レインは顔を上げる。
「待て」
思わず呼び止める。
「古代文明に何があったんだ」
ブラックガーディアンは沈黙した。
そして最後に一言だけ残す。
「魔王……再び目覚める」
その瞬間。
身体が光になった。
風に溶けるように消えていく。
そして。
完全に姿を消した。
⸻
森には静寂が戻っていた。
リリアが隣へ来る。
「大丈夫か?」
「たぶん」
正直、自信はなかった。
頭の中は混乱している。
古代文明。
継承者。
魔王。
知らないことばかりだ。
しかし一つだけ確かなことがある。
自分はもう普通の冒険者ではない。
「これからどうする?」
リリアが尋ねる。
レインは少し考える。
そして答えた。
「知りたい」
「何を?」
「全部」
古代魔法のこと。
自分の力のこと。
ブラックガーディアンが残した言葉の意味。
なぜ自分が選ばれたのか。
知らなければならない。
そんな気がした。
リリアは笑う。
「なら冒険だな」
「冒険?」
「ああ」
剣を肩に担ぐ。
「世界を見て回ればいい」
「案外答えはその辺に落ちてるかもしれないぞ」
レインは思わず笑った。
確かにそうかもしれない。
追放されたあの日。
人生は終わったと思った。
だが違った。
むしろ始まりだったのだ。
新しい旅の。
新しい運命の。
⸻
その頃。
王都アルディア。
蒼天の剣の拠点。
カイルは一通の報告書を見つめていた。
そこに記されていたのは。
『アストラ村付近で未知の高位魔法を観測』
『発生源は若い男性冒険者と推定』
カイルの眉が動く。
嫌な予感がした。
そして無意識に思い浮かべる。
追放した少年の顔を。
「まさか……レインか?」
その呟きは誰にも聞かれなかった。
しかし。
運命の歯車は再び動き始める。
追放された少年。
古代魔法。
そして迫り来る魔王の影。
レインの物語は、ここから本格的に始まるのだった。
第1章 追放と旅立ち 完
第11話 王都からの使者 へ続く。




