第57話 第四の遺産
第57話 第四の遺産
レインの手が黒い結晶に触れた。
ドクン――。
結晶が大きく脈打つ。
同時に、禍々しい闇がレインの腕を這い上がった。
「ぐっ……!」
激しい痛みが全身を駆け巡る。
まるで心を飲み込まれるような感覚だった。
「レイン!」
リリアが叫ぶ。
しかし、近づくことはできない。
祭壇の周囲には強力な結界が張られていた。
⸻
『継承者よ。』
頭の中に声が響く。
目を開くと、レインは真っ白な空間に立っていた。
目の前には、一人の青年がいる。
白銀の鎧をまとい、優しい笑みを浮かべていた。
「あなたは……?」
青年は静かに名乗る。
「私はセレス。」
「第四の遺産、《幻影の心》を託された最後の継承者だ。」
レインは驚く。
「継承者……?」
セレスは頷く。
「君と同じように、七つの遺産を集めた者だった。」
⸻
「教えてください。」
「どうすれば世界を救えるんですか?」
レインの問いに、セレスは少し悲しそうに微笑んだ。
「救う方法はある。」
「だが、その道は簡単ではない。」
彼は右手を掲げる。
すると七つの光が空中に浮かび上がった。
赤、青、緑、黄、紫、白、黒。
「七つの遺産が揃う時。」
「世界を救う力と、世界を滅ぼす力。」
「その両方が目覚める。」
レインは静かに息をのむ。
「最後に選ぶのは……継承者自身。」
アレスが言っていたことは本当だった。
⸻
「君に一つだけ伝えておく。」
セレスは真剣な表情になる。
「黒翼教団の本当の目的は、世界の支配ではない。」
「もっと恐ろしいものだ。」
「恐ろしいもの?」
その瞬間だった。
空間全体が激しく揺れる。
「時間切れか。」
セレスは苦笑した。
「また会おう。」
「次は七つ目の遺産で。」
彼の身体は光へ変わり始める。
「待って!」
レインが手を伸ばす。
しかし、その姿は消えてしまった。
⸻
気がつくと、レインは祭壇の前に立っていた。
黒い結晶は砕け散り、闇が消えていく。
その代わりに現れたのは、紫色に輝く小さな水晶だった。
ルナが微笑む。
「それが第四の遺産。」
「《幻影の心》。」
レインが水晶へ触れた瞬間、紫色の光が身体を包む。
魔導書が大きく輝き、新たな紋章が刻まれた。
風・雷・水・幻
四つの紋章が揃う。
魔導書には新たな文字が浮かんだ。
『第四の遺産、継承完了。』
⸻
同時に、神殿を覆っていた黒い霧が消えていく。
崩れかけていた柱は元の姿へ戻り、砕けた水晶も再び輝き始めた。
「戻ってる!」
クロードが驚く。
ルナの身体も少しずつ実体を取り戻していく。
「助かった……。」
彼女は涙ぐみながら微笑んだ。
「ありがとう。」
⸻
フェンリクも静かに頷く。
『約束は果たした。』
そう言うと、その身体は炎となって空へ消えていく。
「また会おう。」
最後に残した言葉だけが、神殿に響いた。
⸻
その時だった。
レオンが突然胸を押さえた。
「ぐっ……!」
「レオン!」
サラが駆け寄る。
彼の胸には、黒い紋様が浮かび上がっていた。
ルナの表情が変わる。
「まさか……。」
「アレスに斬られた時の闇が残ってる!」
黒い紋様は少しずつ広がっていく。
レオンは苦しそうに笑った。
「大丈夫……。」
「これくらいなら……。」
しかし、その身体はゆっくりと崩れ落ちた。
「レオン!!」
仲間たちの叫びが神殿に響く。
第四の遺産を手に入れた喜びは、一瞬で不安へと変わった。
黒翼教団が残した闇は、まだ終わっていなかった。
第58話 闇の呪印 へ続く。




