第56話 崩壊する幻影神殿
第56話 崩壊する幻影神殿
ゴゴゴゴゴ……。
幻影神殿全体が激しく揺れ続ける。
天井から巨大な水晶が次々と落下し、床には深い亀裂が走っていた。
「急げ!」
レオンが叫ぶ。
落ちてきた水晶を剣で弾き飛ばしながら仲間たちを守る。
「ルナ!」
レインは彼女のもとへ駆け寄った。
ルナの身体は胸から下が半透明になっていた。
「大丈夫か!」
ルナは苦しそうに微笑む。
「私は……神殿そのもの。」
「神殿が壊れれば……私も消える。」
その言葉に全員が息をのむ。
⸻
「助ける方法は?」
レインが尋ねると、ルナは震える手で祭壇を指差した。
祭壇の中央には、アレスが突き刺した黒い結晶が脈打つように光っている。
ドクン……ドクン……。
まるで心臓のようだった。
「あれを……浄化して。」
「でも、普通の魔法じゃ壊せない。」
魔導書が再び光る。
新たな文字が浮かび上がる。
『融合魔法と三つの紋章を共鳴させよ。』
レインは静かに頷いた。
「やってみる。」
⸻
しかし、その瞬間。
祭壇の周囲から黒い霧が立ち上る。
ゴォォォッ!!
霧は一体の巨大な魔物へ姿を変えた。
四本の腕を持つ漆黒の巨人。
身体中に紫色の結晶が埋め込まれている。
魔導書が震えた。
『闇晶巨人グラディウス』
クロードが思わず叫ぶ。
「またボスかよ!」
グラディウスは咆哮を上げ、四本の腕を振り下ろす。
ドォォォン!!
床が大きく砕け、神殿の崩壊がさらに加速する。
⸻
「俺たちで止める!」
リリアが飛び出す。
剣で腕を斬りつけるが、黒い結晶に弾かれてしまう。
「硬い!」
サラは素早く背後へ回り込み、短剣を突き立てる。
しかし傷一つ付かない。
「全然効かない!」
レオンも渾身の一撃を放つ。
それでも巨人は一歩も動かなかった。
「力が桁違いだ……。」
⸻
レインは魔導書を開く。
ページが光り、融合魔法が浮かび上がる。
「《蒼雷嵐》!」
巨大な渦がグラディウスを飲み込む。
雷鳴が轟き、水流が結晶を打ち続ける。
しかし――。
黒い結晶はすべての攻撃を吸収してしまった。
「吸収してる!?」
ルナが叫ぶ。
「魔法じゃ駄目!」
「核を直接浄化しないと!」
⸻
レインは祭壇を見る。
黒い結晶まであと数十メートル。
だが、その前にはグラディウスが立ちはだかっている。
「俺が道を開く!」
レオンが前へ出た。
「レオン!」
「レイン。」
「ここは任せろ。」
レオンは静かに笑う。
「俺は騎士だ。」
「仲間を守るのが仕事だからな。」
その背中を見たリリアが剣を構える。
「一人じゃ行かせない。」
クロードも短剣を回した。
「俺もだ。」
サラはレインの肩を叩く。
「あなたは前だけ見て。」
「結晶を壊して。」
レインは深く頷いた。
「ありがとう。」
⸻
四人が一斉にグラディウスへ突撃する。
レオンが真正面から剣を振るい、巨人の注意を引く。
リリアが右脚を狙う。
クロードは素早く背中へ飛び乗り、サラは結晶へ短剣を投げ続ける。
「今だ!」
レオンの叫び。
レインは全力で駆け出した。
祭壇まであと十メートル。
五メートル。
その瞬間。
グラディウスがレインへ向かって巨大な拳を振り上げた。
「しまっ――!」
誰も間に合わない。
そう思われた瞬間だった。
ガァァン!!
巨大な狼が横から飛び込み、拳を受け止めた。
赤い炎をまとったその姿。
「フェンリク!」
炎狼王はレインへ振り向き、静かに頷く。
『約束を果たしに来た。』
レインが持っていた炎狼王の牙は、光となって消えていた。
一度だけ呼べるという約束。
その力が、今発動したのだった。
「ありがとう!」
レインは最後の力を振り絞り、祭壇へ飛び込む。
黒い結晶へ手を伸ばした。
その瞬間、魔導書と三つの紋章がかつてないほど眩しく輝き始める――。
第57話 第四の遺産 へ続く。




