第52話 裏切りの兄
第52話 裏切りの兄
「兄さん……?」
レオンの震えた声が、静まり返った神殿に響く。
仲間たちは驚いた表情で彼を見る。
仮面を外した男は静かに笑っていた。
黒髪に鋭い青い瞳。
レオンとよく似た顔立ちだった。
「驚いたか。」
男はゆっくりと口を開く。
「私はアレス・ヴァイス。」
「黒翼教団幹部、そしてレオンの実の兄だ。」
クロードが思わず声を上げる。
「兄弟だったのか!?」
レオンは剣を握る手を震わせていた。
「兄さんは……五年前に死んだはずだ。」
アレスは小さく肩をすくめる。
「王国ではそういうことになっている。」
「だが私は生きていた。」
⸻
ルナは警戒するように一歩前へ出る。
「アレス。」
「これ以上、この森を汚さないで。」
アレスは冷たい笑みを浮かべる。
「相変わらず優しいな。」
「だから利用される。」
黒い魔力が彼の身体から溢れ出した。
神殿の水晶が次々と黒く染まっていく。
「まずい!」
ルナが苦しそうに膝をつく。
「神殿が侵食されてる……。」
⸻
レインはアレスを睨みつけた。
「何が目的なんだ!」
アレスはレインへ視線を向ける。
「世界を変えること。」
「古代文明は滅びるべくして滅びた。」
「弱い者が多すぎたからだ。」
「だから私は選ばれた者だけが生きる世界を創る。」
リリアは怒りを露わにする。
「そんな世界、認めるか!」
アレスは笑う。
「そう言うと思った。」
⸻
レオンがゆっくり前へ出る。
「兄さん。」
「父さんも母さんも、ずっと帰りを待っていた。」
「それなのに、どうして……。」
一瞬だけ、アレスの表情が曇る。
だがすぐに冷たい笑みに戻った。
「もう家族など必要ない。」
「私は力を選んだ。」
レオンは静かに剣を抜く。
「なら。」
「俺が止める。」
⸻
「できると思うか?」
アレスは片手を上げる。
黒い魔法陣が神殿中へ広がった。
次の瞬間。
無数の黒い騎士が現れる。
全身を黒い鎧で包んだ幻影の兵士たちだった。
「幻影騎士!」
ルナが叫ぶ。
「神殿の守護者を闇で操ってる!」
黒い騎士は一斉に剣を抜く。
その数、およそ五十。
クロードが顔を引きつらせる。
「多すぎるだろ!」
「やるしかない!」
リリアが真っ先に駆け出した。
剣が一体の幻影騎士を斬り裂く。
しかし、その身体はすぐに霧となって再生する。
「再生した!?」
レオンも剣を振るうが結果は同じだった。
「普通の攻撃じゃ倒せない!」
⸻
レインは魔導書を開く。
ページが激しく光り、新しい文字が浮かび上がる。
『幻を断つには、真実を見抜け。』
「真実……?」
意味が分からない。
その時、ルナが苦しそうに声を上げた。
「胸の……水晶!」
レインは騎士たちをよく見る。
黒い鎧の奥。
胸の中心だけが淡く紫色に光っている。
「あそこだ!」
「胸の水晶を狙え!」
クロードが素早く飛び込み、短剣を突き立てる。
パリン!
紫色の水晶が砕ける。
すると幻影騎士は霧となって完全に消えた。
「本当に消えた!」
リリアも次々と水晶を破壊していく。
レオンは剣を振るいながら叫ぶ。
「レイン!」
「アレスは俺が止める!」
「任せた!」
兄弟は互いに剣を構え、ゆっくりと距離を詰める。
神殿の中央。
二人だけの戦いが始まろうとしていた。
一方、アレスは静かに笑う。
「強くなったな、レオン。」
「だが、お前にはまだ越えられない。」
そう言って腰の剣をゆっくりと抜いた。
漆黒の刀身から禍々しい魔力が溢れ出す。
神殿全体が震え始めた。
兄弟の因縁。
そして第四の試練は、新たな局面を迎える。
第53話 兄弟の剣 へ続く。




