第51話 幻影神殿
森の中心に現れた巨大な神殿。
透き通る紫色の水晶で造られたその建物は、まるで空へ伸びる塔のようだった。
「これが……。」
レインは思わず息をのむ。
ルナは静かに頷いた。
「幻影神殿。」
「第四の遺産が眠る場所よ。」
神殿へ続く石畳には、黒い霧が漂っていた。
その中には無数の人影が立っている。
「全部……敵か。」
クロードが短剣を抜く。
ルナは首を振った。
「違う。」
「あれは、あなたたち自身の恐怖。」
「心が負ければ、本物の敵になる。」
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五人はゆっくりと石畳を歩き始めた。
すると最初の黒い影が形を変えていく。
レインの前に現れたのは――イグニスだった。
「また会ったな。」
燃え盛る炎をまとった姿。
あの日と同じ圧倒的な威圧感。
「……幻だ。」
レインは自分に言い聞かせる。
だがイグニスは笑う。
「どうした?」
「また負けるのが怖いのか。」
胸が締め付けられる。
敗北した記憶が鮮明によみがえった。
「違う!」
レインは魔導書を握り締める。
「俺はもう逃げない!」
その言葉と同時に魔導書が青く輝く。
幻のイグニスは光となって消えていった。
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その頃、リリアの前には一人の少女が立っていた。
幼い頃の自分だった。
「どうせ何をやっても無駄。」
「弱いままだよ。」
幼い自分が涙を流しながら呟く。
リリアは静かに近づいた。
「違う。」
「私は弱かった。」
「でも、一人じゃなかった。」
「仲間がいたから、ここまで来られた。」
幼い自分は微笑み、光の粒となって消えていく。
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クロードの前には、大勢の冒険者が現れた。
「お前は足手まといだ。」
「仲間の邪魔をするな。」
昔、駆け出しの頃に浴びせられた言葉だった。
クロードは苦笑する。
「昔なら落ち込んでたな。」
短剣を構え、前を向く。
「でも今は違う。」
「俺には信じてくれる仲間がいる!」
影は砕け散り、霧の中へ消えていった。
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サラの前には再び父親が現れる。
「帰っておいで。」
優しい笑顔。
だがサラは首を横に振った。
「ごめん。」
「私はもう前に進む。」
父親は静かに微笑み、風となって消えていく。
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最後にレオン。
彼の前には、王国騎士団の団長が立っていた。
「お前は失敗した。」
「仲間を守れなかった。」
レオンは目を閉じる。
過去の任務。
守れなかった部下。
今でも忘れられない記憶だった。
「……ああ。」
「確かに守れなかった。」
「だから今度こそ守る。」
騎士団長の幻は静かに頷き、消えていった。
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すべての幻が消えると、石畳を覆っていた黒い霧も晴れていく。
ルナは安心したように微笑んだ。
「みんな、自分の弱さを乗り越えた。」
「第一の試練は合格。」
神殿の巨大な扉が、ゆっくりと音を立てて開いた。
ゴゴゴゴ……。
内部には無数の水晶柱が並び、天井には星空のような光が広がっている。
幻想的な光景だった。
しかし、その奥から突然拍手が響く。
パチ……パチ……。
「見事だ。」
聞き覚えのある声だった。
レインたちは一斉に振り向く。
神殿の中央に立っていたのは、黒い仮面をつけた男。
黒翼教団の幹部だった。
「ここまで来るとは思わなかった。」
男はゆっくりと仮面へ手を掛ける。
「ならば、少しだけ私も本気を見せよう。」
仮面が外される。
その下から現れた顔を見たレオンの表情が凍りついた。
「そんな……。」
「まさか、お前は……!」
男は静かに笑った。
「久しぶりだな、レオン。」
「兄さん。」
神殿に、重苦しい沈黙が流れた。
第52話 裏切りの兄 へ続く。




