第50話 幻を司る少女
リン――。
澄んだ鈴の音が森の奥へ響き渡る。
霧がゆっくりと晴れていく中、一人の少女が五人の前へ姿を現した。
銀色の長い髪。
紫色の瞳。
白いワンピースが風もない森の中で静かに揺れている。
その周囲には無数の光の蝶が舞っていた。
「あなたが……。」
レインは一歩前へ出る。
少女は優しく微笑む。
「私はルナ。」
「幻影の森を守る者。」
魔導書が強く震えた。
ページが勝手に開き、文字が浮かび上がる。
『第四の守護者 幻影の巫女ルナ』
⸻
クロードが小声で呟く。
「敵……なのか?」
ルナは首を横に振った。
「違う。」
「私は戦うためにいるわけじゃない。」
「遺産を託す者を見極めるためにいる。」
リリアは剣を下ろした。
「なら、試練か。」
ルナは静かに頷く。
「でも、その前に確認したいことがある。」
「継承者。」
「あなたは何のために力を求めるの?」
突然の問いだった。
レインは少しだけ考える。
そして真っ直ぐルナを見る。
「大切な人を守るため。」
「世界を救うため。」
「……それだけじゃない。」
仲間たちがレインを見る。
「ヴァルグも。」
「フェンリクも。」
「イグニスも。」
「みんな、本当は悪じゃなかった。」
「だから俺は倒すんじゃなくて、救いたい。」
ルナは静かに目を閉じた。
「……そう。」
「あなたは、やっぱりあの人によく似ている。」
「え?」
レインが聞き返す。
しかしルナは答えなかった。
⸻
突然、森全体が震え始める。
ゴォォォ……。
紫色の霧が渦を巻き、巨大な魔法陣が地面に浮かび上がった。
「試練が始まる。」
ルナの表情が真剣になる。
「でも気を付けて。」
「これは私が始める試練じゃない。」
その瞬間だった。
森の奥から黒い魔力が溢れ出す。
「この気配……!」
レオンが剣を抜く。
霧の中から、黒いローブの集団が姿を現した。
黒翼教団だった。
先頭には仮面を付けた男が立っている。
「ようやく見つけた。」
男はルナを見て笑った。
「第四の守護者。」
ルナは静かに一歩前へ出る。
「また来たのね。」
「遺産は渡さない。」
仮面の男は肩をすくめた。
「なら力ずくだ。」
⸻
男が手を掲げる。
黒い魔法陣が森全体へ広がった。
すると霧が黒く染まり始める。
「まずい!」
ノアから渡された結界石が赤く光る。
レオンが叫ぶ。
「この森そのものが侵食されている!」
ルナは苦しそうに胸を押さえた。
「幻影の森と私は繋がっている……。」
「森が汚されれば、私も……。」
レインは彼女を支える。
「無理するな!」
「まだ大丈夫。」
ルナは小さく笑う。
しかし、その笑顔はどこか苦しそうだった。
⸻
仮面の男はゆっくり歩き出す。
「継承者。」
「お前は遺産を集めている。」
「だが、一つだけ知らないことがある。」
レインは睨み返す。
「何だ。」
男は不気味に笑った。
「七つの遺産を集めた者は、世界を救うことも滅ぼすこともできる。」
「最後に選ぶのは、お前自身だ。」
その言葉に全員が息をのむ。
世界を救う。
それだけでは終わらない。
世界を滅ぼす可能性もあるというのか。
⸻
「くだらない。」
レインは静かに答えた。
「俺は誰も犠牲にしない。」
「みんなで未来を守る。」
その言葉を聞いたルナは、優しく微笑んだ。
「やっぱり……。」
「あなたでよかった。」
その瞬間、彼女の身体が淡い紫色の光に包まれる。
「継承者。」
「試練を始めましょう。」
ルナが両手を広げると、森の中心に巨大な水晶の神殿が姿を現した。
霧が晴れ、長い石畳の道が神殿まで続いている。
しかし、その道の途中には無数の黒い影が立ち並んでいた。
黒翼教団によって生み出された幻の魔物たちだった。
「ここから先は、あなた自身の心が試される。」
レインは仲間たちを見回し、力強く頷く。
「行こう。」
五人は新たな試練の舞台――幻影神殿へ向かって歩き出した。
一方その頃。
王都ではイグニスが静かに空を見上げていた。
「……継承者。」
「お前はどこまで成長する。」
その瞳には、わずかな期待が宿っていた。
第51話 幻影神殿 へ続く。




