第49話 霧に包まれた森
王都を出発して三日。
街道を抜けた先に、一面を白い霧に包まれた森が姿を現した。
「ここが……。」
レインは立ち止まり、森を見上げる。
木々は空を覆い隠すほど高く、枝葉の隙間から差し込む光さえ紫色に染まっていた。
「幻影の森。」
レオンが静かに呟く。
「王国でも最も危険な禁域です。」
サラは腰の短剣に手を添える。
「なんだか嫌な空気ね。」
クロードは苦笑した。
「砂漠の次はお化け屋敷かよ。」
「笑えない。」
リリアは真剣な表情のまま森を見つめていた。
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森へ一歩足を踏み入れた瞬間だった。
霧がゆっくりと五人を包み込む。
シン……。
鳥の声も風の音も消えた。
静寂だけが広がる。
「全員、離れるな。」
レオンが声を掛ける。
全員が頷き、一定の距離を保ちながら進み始めた。
しかし数分後。
「……あれ?」
クロードが辺りを見回す。
「サラは?」
レインが振り返る。
そこには四人しかいなかった。
「さっきまで後ろにいたはずだ!」
「サラ!」
リリアが叫ぶ。
返事はない。
霧だけが静かに揺れていた。
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一方その頃。
サラは一人、見知らぬ場所へ立っていた。
「ここは……?」
そこは幼い頃に暮らしていた砂漠の村だった。
市場には人々が笑顔で歩いている。
「お父さん?」
亡くなったはずの父親が目の前に立っていた。
「サラ。」
「帰ってきたんだな。」
優しい笑顔。
温かい声。
「そんな……。」
サラの目から涙がこぼれる。
「会いたかった……。」
父親は静かに手を差し伸べた。
「もう旅なんてやめよう。」
「ここで暮らそう。」
サラはその手を見つめた。
本物だと思った。
だが胸の奥に、何かが引っ掛かる。
「違う……。」
父親の笑顔が少しだけ歪んだ。
「どうした?」
サラは首を横に振る。
「あなたはもう……いない。」
その瞬間。
目の前の景色がガラスのように砕け散った。
⸻
「サラ!」
レインたちの声が聞こえる。
気がつくと、彼女は森の中へ戻っていた。
「みんな!」
サラは駆け寄る。
レオンは真剣な表情で言う。
「幻を見せられましたか。」
サラは静かに頷く。
「大切な人だった。」
「でも、本物じゃなかった。」
レオンは小さく息を吐く。
「この森は心の弱さを利用します。」
「油断しないでください。」
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さらに奥へ進む。
霧はますます濃くなっていく。
その時だった。
レインの視界が突然揺らぐ。
気が付くと、一人で草原に立っていた。
「ここは……。」
見覚えがある。
元の世界。
通っていた高校の近くの公園だった。
遠くから聞こえる笑い声。
制服姿の友人たち。
そして――。
「レイン。」
振り返ると、母親が立っていた。
「帰っておいで。」
「もう危ない旅なんて終わり。」
「みんな待ってるよ。」
優しい声だった。
レインは思わず一歩踏み出す。
だが、その時。
胸元の魔導書が淡く光った。
『これは現実ではない。』
頭の中へ直接声が響く。
レインは目を閉じ、ゆっくり深呼吸した。
「帰りたい。」
「でも……。」
目を開く。
「今は帰れない。」
「俺には守りたい世界がある。」
母親の姿が静かに微笑む。
そして光となって消えていった。
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レインが目を覚ますと、仲間たちが心配そうに見つめていた。
「大丈夫?」
リリアが声を掛ける。
「ああ。」
レインは静かに頷く。
「この森は、本当に危険だ。」
その直後。
森の奥から鈴の音が聞こえた。
リン……。
リン……。
霧の向こうに、小さな人影が見える。
銀色の長い髪。
紫色の瞳。
白いワンピースを着た少女だった。
少女は五人を見つめ、優しく微笑む。
「ようこそ。」
「継承者。」
その声と同時に、森の霧が大きく渦を巻き始めた。
第四の遺産への試練が、いよいよ始まろうとしていた。
第50話 幻を司る少女 へ続く。




