第5話 初めての古代魔法
暗闇の中で、赤い瞳が光る。
シャドウウルフ。
その巨体は普通の狼の二倍以上あった。
黒い毛並みは闇に溶け込むようで、見ているだけで威圧感がある。
リリアは剣を構えた。
だが、その表情は険しい。
「まずいな……」
「そんなに強いのか?」
レインが尋ねる。
「強いなんてもんじゃない」
リリアは額に汗を浮かべていた。
「Bランク冒険者でも油断したら死ぬ」
レインの顔が引きつる。
そんな魔物がなぜこんな場所にいるのか。
だが考える暇はなかった。
シャドウウルフが地面を蹴る。
一瞬で距離を詰めてきた。
速い。
目で追うのがやっとだった。
「危ない!」
リリアが飛び出す。
剣を振るう。
金属音。
シャドウウルフの爪とぶつかった。
衝撃でリリアの身体が吹き飛ぶ。
「くっ……!」
壁に叩きつけられる。
レインの顔色が変わった。
強すぎる。
今の一撃だけで分かった。
まともに戦えば勝てない。
シャドウウルフは再び低く唸る。
獲物を見定めるように。
そして次の標的をレインに定めた。
「っ!」
足が動かない。
恐怖だった。
死ぬかもしれない。
そう思った瞬間。
胸の奥が熱くなる。
《始原の魔導書》。
先ほど流れ込んできた知識が頭の中で輝く。
知らないはずの言葉。
知らないはずの魔法。
だが、なぜか分かった。
使える。
そう確信した。
「レイン!」
リリアの叫び声。
シャドウウルフが飛びかかる。
その瞬間。
レインは反射的に手を前へ突き出した。
「――雷よ」
口から言葉が溢れる。
まるで誰かが導くように。
「《ライトニング・アロー》」
次の瞬間だった。
青白い雷が空間を走る。
轟音。
閃光。
稲妻が一直線にシャドウウルフへ突き刺さった。
ドォォン!
爆発音が遺跡に響く。
シャドウウルフの身体が吹き飛ぶ。
壁に激突し、そのまま動かなくなった。
静寂。
レインは呆然と立ち尽くした。
自分でも何をしたのか理解できない。
ただ。
魔法を使った。
それだけは分かった。
「え……?」
リリアも固まっていた。
信じられないものを見るような目。
「今の……お前がやったのか?」
レインはゆっくり頷く。
「たぶん」
「たぶんじゃないだろ!」
珍しく大声だった。
リリアはシャドウウルフの死体を見る。
そしてレインを見る。
また死体を見る。
「一撃だぞ……?」
震える声だった。
それも無理はない。
Bランク冒険者でも苦戦する魔物を、一撃で倒したのだから。
⸻
遺跡の外。
二人は少し休憩していた。
リリアはまだ信じられない顔をしている。
「古代魔法って、本当に存在したんだな」
「俺も驚いてる」
レイン自身が一番驚いていた。
今まで魔法なんて使えなかった。
それなのに。
突然使えるようになった。
しかも普通の魔法ではない。
古代魔法。
失われた伝説の力。
「誰にも言うなよ」
リリアが真剣な顔で言う。
「え?」
「そんな力が知られたら面倒になる」
確かにそうだ。
王国。
貴族。
冒険者ギルド。
様々な人間が興味を持つだろう。
レインは静かに頷いた。
「分かった」
リリアは少し安心したようだった。
そして。
「でも」
珍しく笑う。
「お前、思ったよりすごいやつだったんだな」
レインは苦笑した。
昨日までなら信じられない言葉だ。
追放されたばかりの無能。
そう思われていた自分が。
「まだよく分からないよ」
正直な気持ちだった。
力のことも。
魔導書のことも。
なぜ自分が選ばれたのかも。
何も分からない。
だが。
確かなことが一つある。
人生が変わり始めている。
そんな予感がした。
⸻
その頃。
王都。
蒼天の剣の拠点。
カイルは報告書を見ていた。
「シャドウウルフ討伐?」
眉をひそめる。
「アストラ村付近だと?」
ありえない。
あの辺境に出るような魔物ではない。
そして。
報告書の最後に書かれていた一文が目に入る。
『現場では未知の高位魔法が使用された痕跡を確認』
カイルは立ち上がる。
嫌な予感がした。
なぜか分からない。
だが胸騒ぎがする。
そしてその予感は――。
確実にレインへと繋がっていた。
第6話 冒険者ギルドの依頼 へ続く。




