第4話 森の遺跡
翌朝。
レインは宿の食堂で朝食を済ませると、村の入口へ向かった。
約束の時間より少し早い。
だが、すでにリリアは待っていた。
木にもたれながら腕を組んでいる。
「遅い」
「まだ時間前だけど」
「私が早かっただけ」
理不尽だった。
レインは思わず苦笑する。
リリアはそんなこと気にした様子もなく歩き出した。
「行くぞ」
「ちょっと待って」
「何?」
「作戦とかないの?」
するとリリアは不思議そうな顔をした。
「倒す」
「それは作戦じゃない」
「そうか?」
少し心配になった。
⸻
二人は森の中を進む。
朝の森は静かだった。
鳥の鳴き声。
木々のざわめき。
だが、どこか違和感がある。
妙に静かなのだ。
魔物の気配がない。
リリアも同じことを感じているらしい。
「変だな」
「何が?」
「魔物がいない」
剣の柄に手を置く。
警戒しているようだった。
「普段ならもう何匹か出てくる」
「そうなのか」
「うん」
しばらく歩く。
すると森の奥から風が吹いた。
冷たい風だった。
その瞬間。
レインの胸が妙にざわつく。
理由は分からない。
だが、何かがある。
そんな気がした。
「……こっちだ」
気づけば口にしていた。
リリアが振り返る。
「分かるのか?」
「いや……なんとなく」
自分でも説明できない。
それでも足は自然と奥へ向かっていた。
まるで誰かに導かれているように。
⸻
十分ほど進んだ頃だった。
突然、森が開けた。
「これは……」
リリアが目を見開く。
そこには遺跡があった。
巨大な石造りの建物。
半分以上が崩れている。
だが、今もなお存在感を放っていた。
村の近くにこんな場所があるなんて。
「初めて見る」
リリアも驚いていた。
つまり村人も知らないらしい。
レインは遺跡を見つめる。
その時だった。
胸の奥が熱くなる。
昨日の光と同じ感覚。
何かが反応している。
「レイン?」
「中に何かある」
自然とそう言った。
根拠はない。
でも確信があった。
⸻
二人は慎重に遺跡へ入る。
内部は暗かった。
石の壁。
崩れた柱。
長い年月を感じさせる。
「古代文明の遺跡かな」
リリアが呟く。
古代文明。
千年以上前に滅んだと言われる謎の文明。
その技術や魔法は、今も解明されていない。
レインは奥へ進む。
すると。
行き止まりに見えた壁があった。
しかし。
なぜか分かった。
そこに何かあると。
レインは壁に触れる。
その瞬間だった。
――ゴォォォン。
重い音が響く。
壁が光った。
青白い紋様が浮かび上がる。
「なっ!?」
リリアが驚いて後退る。
次の瞬間。
壁が左右に開いた。
隠し部屋だった。
二人は言葉を失う。
そんな仕掛けを動かした覚えはない。
だが確かに開いた。
そして。
部屋の中央には、一冊の本が置かれていた。
石の台座の上。
青い表紙。
古びているのに、傷一つない。
レインは吸い寄せられるように近づく。
そして本に触れた。
瞬間。
大量の光が溢れた。
頭の中に何かが流れ込んでくる。
知らない文字。
知らない知識。
知らない魔法。
膨大な情報だった。
「ぐっ……!」
頭を押さえる。
苦しい。
だが不思議と恐怖はなかった。
むしろ懐かしい。
そんな感覚だった。
やがて光が消える。
静寂。
レインは荒い息を吐いた。
「大丈夫か!?」
リリアが駆け寄る。
レインは呆然としていた。
そして。
震える声で呟く。
「古代魔法……」
「え?」
「読める」
本来なら読めないはずの文字。
だが今は理解できる。
まるで最初から知っていたように。
本の表紙にはこう書かれていた。
《始原の魔導書》
それは。
世界から失われた古代魔法の知識が記された禁書だった。
そして。
レインがその継承者に選ばれた瞬間でもあった。
だが、その時。
遺跡の奥から低い唸り声が響く。
グルルルル……
二人は振り返る。
暗闇の中。
赤い目がゆっくりと開いた。
「魔物……!」
リリアが剣を抜く。
しかし、その魔物は普通ではなかった。
村の周辺にいるはずのない存在。
巨大な身体。
漆黒の毛皮。
鋭い牙。
その姿を見た瞬間、リリアの顔色が変わる。
「嘘だろ……」
彼女の声が震える。
「なんでこんな場所に――」
現れたのは。
本来なら上級冒険者でも苦戦する危険種。
シャドウウルフだった。
第5話 初めての古代魔法 へ続く。




