第3話 辺境の村アストラ
アストラ村は、レインが想像していたよりも小さな村だった。
木造の家が二十軒ほど並び、その周囲を森が囲んでいる。
王都のような賑やかさはない。
だが、不思議と落ち着く場所だった。
「ここがアストラか……」
村へ足を踏み入れる。
すると畑仕事をしていた老人がこちらを見た。
「おや、旅人か?」
「はい。少し滞在できる場所を探していて」
老人は優しく笑った。
「なら宿屋のマリアのところへ行くといい」
「ありがとうございます」
レインは頭を下げた。
王都では最近冷たい視線ばかりだった。
だからこそ、こうした何気ない親切が嬉しかった。
村の中央へ向かう。
小さな広場。
井戸。
その近くに宿屋らしき建物があった。
看板には『木漏れ日の宿』と書かれている。
扉を開ける。
カラン、と鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から女性が顔を出した。
三十代くらいだろうか。
明るい茶色の髪を後ろでまとめている。
「宿を探してるのかい?」
「はい」
「一泊なら銀貨二枚だよ」
王都よりかなり安い。
レインは少し安心した。
追放された時にもらった金は多くない。
無駄遣いはできなかった。
「お願いします」
部屋を借りる。
二階の小さな部屋だった。
ベッドと机だけ。
だが十分だった。
荷物を置き、レインは窓から外を見る。
静かな景色。
どこか懐かしい気がした。
⸻
夕方。
食堂で夕食を取っていると、外が騒がしくなった。
「またか!」
「急げ!」
村人たちの声が聞こえる。
レインは外へ出た。
村の入口に人が集まっている。
その先には、傷だらけの男たちがいた。
冒険者らしい。
「どうしたんですか?」
近くの村人に尋ねる。
「森で魔物に襲われたんだよ」
「魔物?」
「ああ。最近おかしいんだ」
村人は不安そうな顔をした。
「昔はほとんど出なかったのに、ここ数か月で急に増えた」
レインは森を見る。
夕日に照らされた木々。
一見すると平和そのものだ。
だが、何かが起きているらしい。
その時だった。
「おい!」
鋭い声が響く。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
腰には剣。
赤みがかった長い髪。
年齢はレインと同じくらいだろう。
「お前、旅人か?」
突然の質問だった。
「そうだけど」
「冒険者?」
「一応」
少女はレインを上から下まで見る。
そして。
「弱そう」
真顔で言った。
「……」
レインは言葉を失った。
ひどい。
初対面だ。
少女は腕を組む。
「私はリリア」
「この村で魔物退治をしてる」
「レインです」
「ふーん」
興味なさそうだった。
だが次の瞬間。
「なら明日、一緒に森へ来い」
「え?」
「魔物が増えてる原因を調べる」
あまりにも突然だった。
「いや、俺は――」
「怖いの?」
挑発するような笑み。
レインは少し困る。
正直、自信はない。
戦うのは得意じゃない。
だが。
昼間の光のことも気になっていた。
あれが何だったのか知りたい。
「……行くよ」
答えると、リリアは満足そうに頷いた。
「じゃあ明日の朝」
そう言って去っていく。
嵐みたいな人だった。
⸻
その夜。
レインはなかなか眠れなかった。
森。
魔物。
昼間の謎の光。
そして。
老人の言葉。
全てが繋がっている気がした。
窓の外を見る。
月明かりが森を照らしている。
その奥。
誰も知らない場所で。
淡い青い光が一瞬だけ輝いた。
まるで何かがレインを呼んでいるかのように。
だが、その光を見た者は誰もいなかった。
そして翌朝。
レインはまだ知らない。
森の奥に眠る古代遺跡が、自分の運命を大きく変えることになるのを。
第4話 森の遺跡 へ続く。




