第2話 辺境への道
王都を出たのは、翌朝だった。
空は晴れていた。
昨日まで降っていた雨が嘘のように青空が広がっている。
レインは王都の大門の前で立ち止まった。
高い城壁。
行き交う人々。
賑やかな声。
三年間過ごした場所だった。
冒険者になったのもここ。
仲間と出会ったのもここ。
そして――追放されたのもここだ。
「もう終わったことだよな……」
自分に言い聞かせるように呟く。
胸の奥にはまだ痛みが残っていた。
だが、立ち止まっていても何も変わらない。
レインは背負った荷物を握り直した。
目指すのは北方の辺境にある村アストラ。
昨夜出会った不思議な老人が教えてくれた場所だった。
本来なら信じる理由などない。
だが、今のレインには他に行き先もなかった。
「とりあえず行ってみよう」
そう決めて歩き始める。
王都から北へ続く街道は広かった。
商人の馬車。
旅人。
冒険者。
様々な人が行き交う。
だが昼を過ぎる頃には人通りも少なくなっていた。
辺境へ向かう者は多くないらしい。
歩きながらレインは考える。
これからどうするべきか。
冒険者を続けるのか。
別の仕事を探すのか。
何も決まっていなかった。
そんな時だった。
「助けてくれ!」
前方から叫び声が聞こえた。
レインは顔を上げる。
街道の先で馬車が止まっていた。
その周囲には三体のゴブリン。
緑色の肌を持つ低級魔物だ。
だが普通の商人には十分脅威になる。
御者らしき男が必死に棒を振り回していた。
「くっ……!」
レインは走り出した。
考えるより先に体が動いていた。
剣の才能はない。
強くもない。
それでも見捨てることはできなかった。
近くに落ちていた木の枝を拾う。
そして一番近いゴブリンへ飛び込んだ。
「うおおっ!」
枝を振るう。
ゴブリンが驚いて振り返る。
その隙に御者が距離を取った。
しかし。
次の瞬間。
別のゴブリンがレインへ飛びかかる。
「まずい――」
避けきれない。
そう思った時だった。
レインの胸元が淡く光る。
一瞬だけ。
青白い光が走った。
――バチッ。
空気が弾ける音。
ゴブリンの身体が吹き飛んだ。
「え?」
レイン自身が一番驚いた。
何が起きたのか分からない。
魔法?
いや、自分は魔法を使えないはずだ。
混乱している間にも残る二体のゴブリンが怯えたように後退る。
そして森の中へ逃げていった。
静寂。
風の音だけが聞こえる。
御者の男が呆然としていた。
「兄ちゃん……今の魔法か?」
「いや……」
レインは首を振る。
本当に分からなかった。
何もしていない。
少なくとも本人にはそう思えた。
「助かったよ!」
御者は何度も頭を下げた。
「ありがとう!」
「いえ……」
結局、何が起きたのか分からないままレインは礼を言われる。
御者はお礼としてパンをいくつか分けてくれた。
馬車が去った後も、レインはしばらく立ち尽くしていた。
胸元に手を当てる。
何も変わらない。
だが確かに光った。
「あれは何だったんだ……?」
答えは出ない。
しかし。
昨日の老人の言葉を思い出す。
『北へ行け』
『お前の運命が待っておる』
まさか。
本当に何かあるのだろうか。
夕方。
レインは街道脇の丘に立っていた。
その先に小さな村が見える。
煙突から立ち上る煙。
木造の家々。
周囲を森に囲まれた静かな集落。
入口の看板にはこう書かれていた。
――アストラ村。
レインは知らなかった。
この村の地下に、世界の歴史を変える秘密が眠っていることを。
そして。
自分自身にも、まだ知らない力が眠っていることを。
レインは村へ向かって歩き出した。
新しい運命の始まりだった。
第3話 辺境の村アストラ へ続く。




