第47話 敗北の先に
洞窟には重苦しい沈黙が流れていた。
イグニスが去ったあとも、焼けつくような熱気だけが残っている。
誰も言葉を発しなかった。
リリアは折れかけた剣を見つめ、悔しそうに唇を噛む。
「……何もできなかった。」
クロードも壁にもたれたまま拳を握り締めた。
「あんなの反則だろ。」
「攻撃が全部通じないなんて。」
レインは静かに魔導書を閉じる。
「俺たちが弱いんじゃない。」
「イグニスが、それ以上に強すぎた。」
しかし、その言葉は自分自身へ言い聞かせているようでもあった。
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「レイン!」
鉄格子の向こうからサラが声を上げる。
「あっ!」
クロードが駆け寄る。
「忘れてた!」
「忘れてたとは何よ!」
サラは呆れたようにため息をついた。
クロードは照れ笑いしながら鍵を探す。
「鍵は……。」
「そんなの待ってられない。」
リリアは剣を構える。
「下がって。」
ガキィン!
一撃で鉄格子が吹き飛んだ。
サラはゆっくり外へ出る。
「助かった。」
「ありがとう。」
レインは安心したように笑う。
「無事でよかった。」
サラは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「心配かけた。」
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その時だった。
フェンリクが洞窟の奥へ歩いていく。
「ついて来い。」
「え?」
狼王は振り返る。
「礼をしたい。」
四人は顔を見合わせ、その後を追った。
洞窟の最深部。
そこには、小さな地下神殿が隠されていた。
中央には古びた祭壇。
その上に、一枚の赤い結晶板が置かれている。
魔導書が強く反応した。
ページが勝手に開く。
『古代の記録を確認。』
レインが結晶板へ触れる。
すると、赤い光が辺りを包んだ。
⸻
映像が浮かび上がる。
そこには、若き日のイグニスが立っていた。
今より穏やかな表情。
白い鎧をまとい、人々を守るために炎を操っている。
「これが……イグニス?」
クロードが驚く。
イグニスは笑顔で子どもたちと話していた。
戦争で焼けた村を立て直し、人々へ食事を配っている。
悪人には見えない。
その映像の最後。
黒いローブの人物が近づき、小さな黒い結晶を差し出した。
『もっと力が欲しくないか。』
その言葉だけが響く。
映像はそこで途切れた。
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「昔は英雄だった……。」
リリアが静かに呟く。
フェンリクは頷く。
「イグニス様は、人を守る炎だった。」
「だが、黒翼教団に心を蝕まれた。」
レインは魔導書を見つめる。
ヴァルグもそうだった。
フェンリクもそうだった。
もしかすると、イグニスも完全な悪ではない。
「助けられるのかな……。」
その瞬間、魔導書に新しい文字が浮かび上がる。
『四使徒は滅ぼす存在ではない。』
さらに文字が続く。
『本来の姿へ戻せ。』
レインは目を見開いた。
「やっぱり……。」
倒すことではなく、救うこと。
それが継承者の役目なのだ。
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洞窟の出口へ向かう途中、フェンリクが立ち止まった。
「これを持っていけ。」
口にくわえていた赤い牙をレインへ差し出す。
「炎狼王の牙。」
「危機が訪れた時、一度だけ我を呼べる。」
レインは驚きながら受け取る。
「ありがとう。」
フェンリクは静かに頷いた。
「必ずイグニス様を救ってくれ。」
「約束します。」
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夕暮れ。
四人は洞窟を出た。
砂嵐はすっかり止み、赤い夕日が砂漠を染めている。
サラが地平線を見つめながら言った。
「一度王都へ戻ろう。」
「このままじゃ勝てない。」
誰も反対しなかった。
レインは西の空を見つめる。
イグニスとの実力差。
黒翼教団の真の目的。
そして、まだ見ぬ第四の遺産。
課題は山積みだった。
だが、心は折れていない。
仲間がいる。
守りたい人たちがいる。
だから前へ進める。
四人はゆっくりと王都への道を歩き始めた。
その頃、黒翼教団本部では一人の仮面の男が静かに笑っていた。
「継承者。」
「次の舞台は、天空でも海でも砂漠でもない。」
男の前には、紫色に光る巨大な地図。
そこには、新たな目的地が示されていた。
《幻影の森》
「そこで、お前は最も大きな絶望を知る。」
第48話 幻影の森への道 へ続く。




