第38話 深海の守護者
ドン……。
ドン……。
重い足音が神殿中に響く。
巨大な扉の奥から、一つの影がゆっくりと姿を現した。
三メートルを超える巨体。
全身を青い鎧で覆い、片手には巨大な三叉槍を握っている。
頭部には王冠のような兜。
だが、その兜の隙間から見える瞳は赤黒く染まっていた。
「……これが。」
レインは息をのむ。
「闇に飲まれた守護者。」
⸻
守護者は三人を静かに見つめる。
敵意というより、苦しんでいるような表情だった。
突然、低い声が神殿に響く。
「……立ち去れ。」
「えっ?」
クロードが目を丸くする。
守護者は槍をゆっくり構えた。
「我は……この神殿を守る者。」
「これ以上……近づけば……。」
言葉の途中で、黒い霧が全身から噴き出した。
「ぐああああっ!」
守護者は頭を抱えて苦しみ始める。
赤い瞳がさらに濁っていく。
「逃げろ……。」
「……殺してしまう。」
その瞬間だった。
黒い霧が守護者の身体を完全に包み込む。
「侵入者……。」
声が変わる。
冷たく、感情のない声。
「排除する。」
⸻
ドォン!!
三叉槍が床へ叩きつけられる。
衝撃だけで石畳が砕け、床に張られた水が高く跳ね上がる。
「速い!」
リリアが剣で受け止める。
だが、そのまま吹き飛ばされ、柱へ激突した。
「リリア!」
クロードが駆け寄る。
「大丈夫!」
「まだ戦える!」
リリアは立ち上がるが、腕が痺れていた。
「あの力……普通じゃない。」
⸻
レインは魔導書を開く。
「《蒼雷槍》!」
青い雷が一直線に走る。
しかし守護者は槍を軽く振るだけで雷を弾き飛ばした。
「そんな!」
続けて巨大な水の槍が現れる。
「《深海槍》。」
守護者の魔法だった。
無数の水槍が空中へ浮かぶ。
「避けろ!」
クロードが叫ぶ。
水槍が一斉に放たれた。
神殿中へ雨のように降り注ぐ。
三人は柱を盾にして何とか防ぐ。
一本だけ柱を貫通し、壁へ突き刺さる。
「威力がおかしいだろ!」
クロードは冷や汗を流した。
⸻
レインは守護者を見つめる。
戦っている。
だが、どこか違和感がある。
攻撃のたびに苦しそうな表情になる。
黒い霧が守護者の身体を無理やり動かしているようだった。
その時。
魔導書が光る。
新しい文字が浮かぶ。
『敵ではない。闇を断て。』
レインは目を見開く。
「倒すんじゃない。」
「助けるんだ。」
「本気か?」
クロードが驚く。
「あの強さだぞ!」
リリアは静かにレインを見た。
「方法はあるの?」
「まだ分からない。」
「でも……。」
レインは守護者の胸を見る。
鎧の隙間から黒い水晶が光っていた。
「あれが闇の核だ。」
⸻
守護者が再び槍を構える。
「終わりだ。」
黒い魔力が神殿を震わせる。
レインは叫んだ。
「リリア!」
「核を狙う!」
「分かった!」
リリアは真正面から突っ込む。
守護者も迎え撃つ。
剣と槍が激しくぶつかる。
その隙にクロードが背後へ回る。
「今だ!」
短剣を振るう。
しかし。
ガキン!
黒い結界が核を守っていた。
「くそっ!」
守護者が振り返り、クロードを蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
壁へ叩きつけられ、動けなくなる。
「クロード!」
レインは魔法を放つが、すべて結界に防がれる。
絶望的な状況。
その時だった。
神殿中へ、あの優しい歌声が響く。
ラララ……。
海の精霊ネリスの歌。
黒い霧が少しだけ薄くなる。
守護者は苦しそうに顔を上げた。
「……ネリス。」
その一瞬だけ、赤い瞳が青く戻る。
レインはその瞬間を見逃さなかった。
「今しかない!」
魔導書と天空の腕輪が同時に輝き始める。
青い光が神殿全体を包み込んだ。
闇の核へ届く唯一の魔法が、生まれようとしていた。
第39話 蒼海の浄化 へ続く。




