第37話 深海神殿
海底へ続く石階段は、どこまでも続いていた。
頭上を見上げると、青い海が結界越しに揺れている。
巨大な魚の群れが泳ぎ、時折、光を反射して幻想的な景色を作り出していた。
「不思議な場所だな。」
クロードが思わず足を止める。
「海の中を歩いてるなんて信じられない。」
リリアも周囲を見回した。
「結界がなかったら、とっくに溺れてるな。」
レインは右腕の《天空の腕輪》を見る。
腕輪は淡い青色に輝き続けていた。
「この腕輪が結界と共鳴してるみたいだ。」
「だから普通に呼吸できるのか。」
三人は再び歩き始めた。
⸻
しばらくすると、階段の先に巨大な建物が姿を現す。
海底神殿。
白い石で造られた神殿は、海藻や珊瑚に覆われながらも、その美しさを失っていなかった。
大きな柱には魚や波を模した彫刻が刻まれ、入口には古代文字が並んでいる。
「天空神殿とは雰囲気が違うな。」
クロードが呟く。
レインが扉へ近づくと、《始原の魔導書》が反応した。
ギギギ……。
重い音とともに、巨大な扉がゆっくり開く。
冷たい空気が流れ出した。
⸻
神殿の中は静まり返っていた。
床には浅く水が張られ、歩くたびに小さな波紋が広がる。
天井には青く光る鉱石が埋め込まれ、昼間のように明るい。
「誰かいる気配は?」
リリアが小声で尋ねる。
レインは目を閉じる。
天空の腕輪に意識を集中させる。
「……奥から魔力を感じる。」
「一つだけじゃない。」
「何個ある?」
クロードが聞く。
「少なくとも三つ。」
その言葉に三人の表情が引き締まる。
⸻
神殿を進んでいくと、大きな広間へ出た。
そこには三体の石像が並んでいた。
剣を持つ戦士。
槍を構えた騎士。
そして杖を持つ魔導士。
どれも人間より一回り大きい。
「像か。」
クロードが近づこうとした瞬間だった。
カッ——。
三体の石像の目が赤く光る。
「まずい!」
リリアが叫ぶ。
石像がゆっくり動き始めた。
ゴゴゴ……。
石の擦れる音が神殿に響く。
「侵入者。」
魔導士の石像が口を開く。
「排除。」
「喋った!?」
クロードが慌てて後ろへ飛ぶ。
戦士の石像は巨大な剣を振り上げ、一気に距離を詰めてきた。
「速い!」
レインは魔導書を開く。
「《風壁》!」
剣が風の壁へ激突する。
衝撃で床がひび割れた。
「普通の石像じゃない!」
リリアは剣を抜き、戦士へ向かって駆ける。
金属同士がぶつかるような音が響く。
しかし相手は石。
斬っても傷が浅い。
「硬い!」
その時、槍の石像が横から突きを放つ。
クロードがリリアを突き飛ばした。
「危ない!」
槍は床へ突き刺さり、大穴を開ける。
「威力まで化け物かよ!」
⸻
レインは冷静に石像を観察していた。
「動きが決まってる……。」
三体は連携している。
戦士が前衛。
槍使いが中距離。
魔導士が後方支援。
まるで訓練された冒険者パーティーだ。
「だったら!」
レインは叫ぶ。
「後衛から倒そう!」
リリアはすぐに理解した。
「クロード!」
「任せろ!」
二人は左右へ散る。
レインは正面から魔法を放ち、戦士の注意を引きつける。
その隙にクロードが柱を駆け上がる。
「上なら見えてないだろ!」
柱から飛び降り、魔導士の石像へ短剣を突き立てる。
ガキン!
「硬っ!」
だが、首元の青い宝石だけがわずかにひび割れた。
レインはその光景を見逃さなかった。
「そこだ!」
「首の宝石が核だ!」
リリアは一気に踏み込む。
渾身の一撃。
剣が青い宝石を正確に斬り裂いた。
パリン——。
魔導士の石像は光を失い、その場で崩れ落ちる。
すると残る二体の動きが一瞬止まった。
「やっぱり!」
レインは確信する。
三体は魔力で繋がっている。
一体ずつ確実に倒せば、連携は崩れる。
しかし、その時。
神殿のさらに奥から、今まで以上に強い魔力が溢れ出した。
ズン……。
空気が震える。
三人は同時に振り向いた。
広間の奥にある巨大な扉が、ゆっくりと開き始めていた。
その暗闇の中から、重く低い足音が響く。
ドン……。
ドン……。
「来る。」
レインは静かに魔導書を握り締めた。
海底神殿の本当の守護者が、ついに姿を現そうとしていた。
第38話 深海の守護者 へ続く。




