第36話 海底への入口
島を揺らした地響きは、しばらくして静まった。
しかし、海岸の沖では青白い光の柱が今も空へ伸び続けている。
「あそこだ。」
レインは海岸へ向かって駆け出した。
リリアとクロードも後に続く。
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海岸へ着くと、ガレスたち船員も沖を見つめていた。
「こんなの初めて見る……。」
船員の一人が震えた声で呟く。
海面の中央には巨大な渦ができ、その真ん中だけが不思議なほど静かだった。
まるで海が左右へ割れているようにも見える。
「近づいたら危険じゃないか?」
クロードが言う。
ガレスも頷いた。
「あの渦に船で入れば沈む。」
普通なら、そうなるはずだった。
その時。
レインの右腕にある《天空の腕輪》が淡く光り始める。
温かい光が全身を包む。
魔導書も同時にページをめくり、新しい文字を映し出した。
『導き手の加護を受けよ。』
「導き手……。」
レインが周囲を見回した、その瞬間だった。
波が静かに揺れる。
海面から、あの少女がゆっくり姿を現した。
青白い長い髪。
透き通るような青い瞳。
今度ははっきりと三人の前へ現れた。
「……。」
少女は静かにレインの前まで歩いてくる。
船員たちは恐怖で動けない。
しかしレインは逃げなかった。
少女はそっと右手を伸ばし、レインの腕輪へ触れる。
その瞬間。
腕輪が眩しいほど輝いた。
青い光が四人を包み込む。
少女は初めて口を開いた。
「……ありがとう。」
透き通るような小さな声だった。
「私の声が……届いた。」
レインは驚きながらも微笑む。
「君が助けを呼んでいたんだね。」
少女は静かに頷いた。
「私は……ネリス。」
「この海を守る精霊。」
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ネリスはゆっくり海を見つめる。
「百二十年前。」
「海底神殿が闇に侵されました。」
「それ以来、私は入口を閉じ続けています。」
「一人で?」
リリアが尋ねる。
ネリスは小さく笑う。
「誰も来なかったから。」
その笑顔はどこか寂しかった。
クロードは何も言えなかった。
百二十年。
一人きりで海を守り続けるなど、想像もできない。
「でも……もう限界。」
ネリスの身体が少し透け始める。
「封印が弱くなっています。」
「だから歌で助けを呼んでいました。」
レインは静かに頷く。
「俺たちが行く。」
「海底神殿へ。」
ネリスは少しだけ安心したように微笑んだ。
「ありがとう。」
⸻
少女は海へ向かって両手を広げる。
静かな歌声が響き始めた。
その歌に合わせるように、海の渦がゆっくりと止まっていく。
やがて海面が左右へ割れた。
その先には、海底へ続く石の階段が姿を現す。
「海の中なのに……。」
クロードが目を見開く。
階段の周囲だけ海水が存在しない。
青い結界が海を押し返しているのだ。
魔導書が再び光る。
『第三の遺跡 海底神殿』
「入口が開いた。」
レインは静かに呟く。
ガレスが三人へ歩み寄る。
「俺たちはここで待つ。」
「必ず戻ってこい。」
レインは力強く頷いた。
「はい。」
ネリスは階段の先を見つめる。
その表情から笑顔が消えていた。
「でも……気を付けて。」
「神殿には、私では止められなかった存在がいます。」
「守護獣じゃないの?」
クロードが尋ねる。
ネリスは首を横に振った。
「違う。」
「闇に飲まれた守護者。」
その言葉と同時に、海底の奥から重い咆哮が響いた。
ゴォォォォォッ——。
海全体が震える。
リリアは剣を抜いた。
レインは魔導書を握り締める。
クロードも静かに短剣を構えた。
三人は顔を見合わせ、小さく頷く。
そして海底へ続く階段を、一歩ずつ下り始めた。
青い結界の向こうには、誰も踏み入れたことのない海底神殿が静かに待っていた。
第37話 深海神殿 へ続く。




