第31話 リヴィア島へ
翌朝。
王都の空は雲ひとつない快晴だった。
「久しぶりにゆっくり寝たな。」
クロードが宿の一階で大きくあくびをする。
「昨日は休むって言ってたのに、結局昼まで寝てたじゃない。」
リリアが呆れたように言う。
「旅の疲れが一気に来たんだよ。」
二人のやり取りを見て、レインは思わず笑った。
旅を始めた頃は気を遣ってばかりだった。
今では、こうして自然に笑える時間が増えていた。
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朝食を終えると、三人は魔術研究院へ向かった。
エルドとノアがすでに準備を終えて待っていた。
机の上には一枚の海図が広げられている。
「リヴィア島へ向かう船を手配した。」
エルドが言う。
「王都から南東へ二日。」
「港町ベルクから定期船が出ている。」
ノアが横から補足する。
「ただし、最近は海が荒れることが増えています。」
「航海できる日も限られるので、今日中に出発してください。」
レインは頷いた。
「分かりました。」
その時、ノアが小さな木箱を差し出す。
「これは研究院からです。」
中には三つの青い小瓶が入っていた。
「魔力回復薬です。」
「天空神殿でかなり消耗したでしょう。」
クロードが目を輝かせる。
「無料?」
「無料です。」
「やった!」
リリアはため息をついた。
「子どもか。」
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昼過ぎ。
三人は王都を出発した。
街道を南へ歩くこと半日。
夕方にはベルクへ続く宿場町へ到着する。
「今日はここで泊まろう。」
レインが言うと、二人も賛成した。
宿は小さいが清潔で、食堂には旅人が数人いるだけだった。
夕食を食べていると、近くの席から会話が聞こえてくる。
「また船が戻らなかったらしい。」
「リヴィア島の近くだ。」
「海の魔物か?」
「いや……歌声を聞いたって話だ。」
歌声。
レインはその言葉が気になった。
宿の主人へ尋ねる。
「歌声って?」
主人は少し顔を曇らせた。
「あの辺りじゃ有名な話さ。」
「夜の海で女性の歌声が聞こえた船は帰ってこない。」
「昔から『海の魔女』がいるって言われてる。」
クロードが小声で言う。
「こういう話、だいたい大げさなんだよな。」
リリアは真剣だった。
「でも海底神殿があるなら、何か関係があるかもしれない。」
レインも同じ考えだった。
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翌日。
昼前には港町ベルクへ到着した。
海沿いに造られた活気のある町だ。
港には大小さまざまな船が停泊し、漁師たちが忙しく働いている。
潮風が心地よく吹き抜けた。
「海だ!」
クロードが子どものようにはしゃぐ。
「昨日まで山にいたのに、今日は海か。」
「忙しい旅だな。」
リリアも苦笑する。
その時、一人の男性が三人へ近づいてきた。
日に焼けた肌。
四十代くらいのがっしりした体格。
「王都から来た冒険者か?」
「はい。」
レインが答える。
男は親指で一隻の船を指した。
「俺は船長のガレスだ。」
「研究院から話は聞いてる。」
港の端には中型の帆船が停泊していた。
船体には『シーウィンド号』と書かれている。
「明日の朝には出港する。」
「今日は船の点検があるから、好きに町を見て回るといい。」
「ありがとうございます。」
ガレスは少しだけ表情を曇らせた。
「ただし。」
「夜は絶対に港へ近づくな。」
「……どうしてですか?」
レインが尋ねる。
ガレスは静かに海を見つめる。
「最近、夜になると歌声が聞こえる。」
「その歌を聞いた船乗りが、一人また一人と姿を消してる。」
港に吹く風が、少しだけ冷たく感じた。
レインは静かな海を見つめる。
昼間は穏やかに見える海。
しかし、その底には第三の遺跡――海底神殿が眠っている。
そして、まだ誰も知らない新たな脅威も。
その日の夜。
宿へ戻ったレインは、窓の外から微かに歌声のようなものが聞こえた気がした。
耳を澄ませる。
しかし、風の音にかき消され、もう聞こえなかった。
「……気のせいかな。」
そう呟いて窓を閉めたレインは、この歌声がこれから始まる戦いの前触れだとは、まだ知らなかった。
**第32話 夜の歌声 へ続く。




