第30話 王都への帰還
王都アルディアの城壁が見えたのは、エルミナを出発して五日後の昼だった。
「ああ、やっと着いた……。」
クロードが大きく伸びをする。
「やっぱり王都は落ち着くな。」
リリアは苦笑した。
「まだ着いただけだ。」
レインも思わず笑う。
旅に出る前は知らない景色だったはずなのに、今では王都が少しだけ「帰ってきた」と思える場所になっていた。
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東門をくぐると、街はいつもの賑わいを取り戻していた。
屋台からは焼きたてのパンの香りが漂い、子どもたちが広場を走り回っている。
王都襲撃の傷跡はほとんど見当たらない。
「平和そうでよかった。」
レインはほっと息をつく。
「この平和を守るためにも、急がないとね。」
リリアが静かに言った。
三人はそのまま魔術研究院へ向かった。
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「お帰りなさい。」
研究院の入口で迎えてくれたのはノアだった。
いつも落ち着いている彼が、今日は少しだけ安堵した表情を見せている。
「皆さんが無事で本当によかった。」
「心配かけました。」
レインが頭を下げる。
「院長がお待ちです。」
ノアに案内され、三人は会議室へ向かった。
部屋ではエルドが静かに資料を読んでいた。
「帰ったか。」
その一言だけだったが、どこか温かさがあった。
レインは《天空の腕輪》を机に置く。
「第二の遺跡で手に入れました。」
エルドは腕輪を見て、静かに目を閉じた。
「本当に見つけたのだな。」
その後、天空神殿で起きた出来事をすべて報告する。
セレスのこと。
ヴァルグの封印。
そしてゼノスとの一時的な共闘。
話を聞き終えたエルドは深く息を吐いた。
「予想以上だ。」
「四使徒が存在するとなると、残された時間は多くない。」
ノアも資料を机へ広げる。
「実は皆さんが戻る前に、新しい情報が入りました。」
「第三の遺跡についてです。」
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地図には王国の東に浮かぶ島が描かれていた。
レインの魔導書に現れたものと同じ場所だ。
「この島はリヴィア島。」
ノアが説明する。
「現在はほとんど人が住んでいません。」
「ですが、百年前までは港町として栄えていました。」
「どうして人がいなくなったんですか?」
クロードが尋ねる。
「突然、海が荒れるようになったからです。」
「漁船が戻らなくなり、島は放棄されました。」
リリアが腕を組む。
「海底神殿と関係があるのか。」
「その可能性は高いでしょう。」
ノアは頷いた。
「問題は、神殿の入口が海底にあることです。」
レインは天空の腕輪を見る。
「この力で何とかならないかな。」
その言葉に、エルドが何かを思い出したように立ち上がった。
「そうか……。」
本棚から一冊の古い本を取り出す。
ページをめくると、一枚の挿絵が現れた。
そこには、腕輪を身につけた人物が水中を泳いでいる姿が描かれていた。
「天空の腕輪には風を操る力だけでなく、水中で呼吸を助ける加護もあると伝えられている。」
「本当ですか?」
レインが驚く。
「試してみる価値はある。」
海底神殿へ向かう道が、少しだけ見えてきた。
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その夜。
久しぶりに王都の宿へ泊まった三人は、それぞれ部屋で休んでいた。
レインは窓を開け、夜空を見上げる。
旅に出てから、まだ一か月も経っていない。
それなのに、自分の人生は大きく変わった。
一人で依頼をこなしていた冒険者。
それが今では仲間がいて、世界の命運を左右する旅をしている。
「……不思議だな。」
そう呟いた時だった。
コンコン。
部屋の扉がノックされる。
「レイン、起きてる?」
リリアの声だった。
扉を開けると、クロードも一緒に立っている。
「どうしたの?」
「せっかく王都に戻ったんだ。」
クロードが笑う。
「明日は休みにしないか?」
「武器の手入れもしたいし、美味い飯も食いたい。」
リリアも珍しく賛成していた。
「次の旅は海だ。」
「その前に、少しくらい息抜きしてもいいだろ。」
レインは少し考えてから笑った。
「そうだね。」
「明日は休もう。」
三人は笑い合う。
束の間の平和。
だが、その頃――。
王都から遠く離れた海の底。
誰も近づくことのない深い海溝で、一つの巨大な神殿が青く光っていた。
その最深部では、黒い鎖に縛られた何かが、ゆっくりと目を開く。
「……継承者。」
低く響く声が、暗い海底に溶けていく。
その存在は、レインたちを待っているかのようだった。
第4章 海底神殿編 開幕
第31話 リヴィア島へ へ続く。




