第28話 天空の封印
神殿中に刻まれた古代文字が、黄金色の光を放つ。
床。
柱。
天井。
あらゆる場所から光が集まり、巨大な封印陣が完成していく。
ヴァルグは初めて険しい表情を見せた。
「この術式は……。」
セレスは祭壇の前に立ち、静かに詠唱を続ける。
「天空神殿に眠る古の契約よ。」
「再び災厄を封じ給え。」
神殿が大きく震えた。
⸻
レインは立ち上がろうとする。
しかし、足に力が入らない。
「くっ……。」
魔力の使いすぎだった。
頭がぼんやりする。
視界も霞んでいた。
「無理するな。」
肩を支えたのはリリアだった。
「でも……。」
「一人で戦うな。」
その一言で、レインは我に返る。
隣を見ると、クロードも立っている。
「最後まで付き合うって決めただろ。」
クロードは笑った。
「それに、借りも返してないしな。」
レインは小さく笑う。
「ありがとう。」
⸻
一方、ゼノスはヴァルグの前へ立っていた。
「お前が封印されれば、我々の計画も振り出しだ。」
ヴァルグは鼻で笑う。
「なら止めてみろ。」
黒い魔力が一気に膨れ上がる。
「我は魔王軍四使徒。」
「人間ごときの封印など——」
最後まで言い切る前に。
ゼノスが静かに呟いた。
「《黒界》。」
黒い魔法陣が神殿いっぱいに広がる。
周囲の魔力を吸収し、自らの力へ変える黒翼教団の秘術だった。
「お前……命を削る気か。」
ヴァルグが初めて驚いた表情を見せる。
ゼノスは薄く笑う。
「必要な犠牲だ。」
彼の髪が少しずつ白く変わっていく。
命を代償にする魔法。
それでもゼノスは止めなかった。
「レイン!」
「今しかない!」
⸻
レインは《始原の魔導書》を開く。
天空の腕輪も眩しく輝く。
二つの遺産が完全に共鳴した。
その時、魔導書の最後の白紙だったページに文字が浮かび上がる。
《封印術・蒼天結界》
「新しい魔法……。」
レインは自然と詠唱を始めていた。
古代語が口から溢れる。
意味は分からない。
それでも、不思議と迷いはなかった。
青い光が神殿中を包む。
黄金の封印陣と重なり合い、一つの巨大な魔法陣が完成する。
セレスが叫ぶ。
「継承者!」
「今です!」
レインは右手をヴァルグへ向けた。
「《蒼天結界》!」
青と黄金の光が交差する。
何本もの光の鎖がヴァルグへ伸びた。
「ぐっ……!」
初めてヴァルグが膝をつく。
鎧に亀裂が走る。
「人間が……!」
光の鎖は全身へ巻き付き、動きを封じていく。
ヴァルグは最後の力で魔力を解放した。
神殿が激しく揺れる。
天井が崩れ始めた。
「神殿が!」
クロードが叫ぶ。
セレスは静かに首を振る。
「この神殿は役目を終えます。」
「でも封印は完成します。」
レインは歯を食いしばる。
さらに魔力を流し込む。
「終わらせる!」
光が一気に強くなる。
ヴァルグの身体は少しずつ光へ飲み込まれていった。
「継承者……。」
ヴァルグはレインを睨む。
「我ら四使徒は……。」
「一人ではない。」
「必ず……。」
「魔王様は——」
最後まで言い終える前に。
眩い光が神殿を包み込んだ。
轟音とともに、ヴァルグの姿は完全に封印された。
静寂。
神殿を満たしていた黒い魔力が、ゆっくりと消えていく。
⸻
レインはその場へ座り込んだ。
もう立つ力も残っていない。
リリアが肩を貸す。
「終わったな。」
「ああ。」
クロードも大きく息を吐く。
「もう二度と竜とか使徒とか勘弁してほしい。」
三人は思わず笑った。
その笑い声を聞きながら、セレスは穏やかに微笑む。
「継承者。」
「あなたは確かに、一歩前へ進みました。」
彼女の身体は少しずつ光の粒へ変わっていく。
「天空神殿は消えます。」
「ですが、七つの遺産はあなたを導き続けるでしょう。」
レインは静かに頭を下げた。
「ありがとうございました。」
セレスは最後に微笑み、静かに姿を消した。
同時に神殿全体が崩れ始める。
「急いで外へ!」
リリアの声で三人は走り出した。
ゼノスたち黒翼教団も無言のまま神殿を後にする。
敵同士ではある。
だが、この場で戦う者は誰もいなかった。
神殿を出た直後、背後で大きな音が響く。
天空神殿はゆっくりと崩れ落ち、雪煙の中へ姿を消した。
レインは振り返る。
「これで終わりじゃない。」
魔導書には、まだ五つの遺産が残されている。
そしてヴァルグが残した言葉。
「四使徒は一人ではない。」
新たな戦いは、すでに始まっていた。
第3章 天空神殿編 完
第29話 新たな旅立ち へ続く。




