第27話 共闘
ヴァルグが一歩踏み出しただけで、神殿の床にひびが広がる。
圧倒的な魔力。
誰もが本能で理解していた。
勝てる相手ではない。
それでも、逃げるわけにはいかなかった。
「行くぞ!」
レインの声で全員が動き出す。
⸻
最初に飛び出したのはリリアだった。
低い姿勢のまま一気に距離を詰める。
「はあっ!」
鋭い斬撃がヴァルグの胴を狙う。
しかし。
キィン。
金属を叩いたような音が響くだけだった。
傷一つ付かない。
「硬すぎる!」
ヴァルグは片手でリリアの剣を受け止める。
そのまま軽く腕を振った。
「っ!」
衝撃だけでリリアの体が吹き飛ぶ。
壁に激突する寸前、クロードが飛び込み、なんとか受け止めた。
「大丈夫か!」
「ああ……助かった。」
⸻
その隙にゼノスが黒い魔法陣を展開する。
「《黒鎖》!」
無数の黒い鎖がヴァルグへ伸びる。
両腕、両脚、胴体を拘束した。
「今だ!」
レインは魔導書を開く。
天空の腕輪も青く輝く。
二つの遺産が共鳴し、これまで以上に大きな魔力が集まっていく。
「《蒼雷槍》!」
巨大な雷の槍が放たれる。
一直線にヴァルグの胸を貫いた。
轟音が神殿を揺らす。
煙が立ち込める。
「やったか?」
クロードが息を呑む。
しかし。
煙の中から低い笑い声が聞こえた。
「……悪くない。」
ヴァルグは立っていた。
胸の鎧に小さな傷が付いている。
それだけだった。
「そんな……。」
レインは思わず言葉を失う。
これまで最強だった魔法が、ほとんど通じていない。
⸻
ヴァルグは鎖を力任せに引きちぎる。
「人間にしては楽しませてもらった。」
黒い魔力が拳へ集まる。
「終わりだ。」
その瞬間。
レインの頭に、魔導書から新たな知識が流れ込んだ。
視線が自然とヴァルグの胸へ向く。
鎧の奥。
赤黒く脈打つ、小さな光。
「核……。」
レインは小さく呟く。
ヴァルグの魔力は、あそこから全身へ流れている。
「あそこを壊せば……!」
「リリア!」
「分かってる!」
言葉は最後までいらなかった。
リリアはすぐに動き出す。
クロードも同時に左右へ散る。
ゼノスはレインを一瞬だけ見た。
「弱点を見つけたか。」
「胸の中央です!」
ゼノスは静かに頷いた。
「なら、私が隙を作る。」
⸻
ゼノスは黒い魔法を連続で放つ。
「《黒影分身》。」
三人の分身が現れ、四方向からヴァルグへ斬りかかる。
「小細工を。」
ヴァルグは拳を振るう。
分身が消える。
しかし、その一瞬だった。
本物のゼノスが背後へ回り込んでいた。
「《影縫い》!」
黒い影が床を走る。
ヴァルグの足元を縛り、一瞬だけ動きを止めた。
「今だ!」
リリアとクロードが同時に跳ぶ。
リリアの剣が鎧を弾き、クロードの短剣が隙間へ突き刺さる。
ガキン!
あと少し届かない。
「レイン!」
レインは大きく息を吸う。
魔導書と天空の腕輪が強く共鳴する。
だが、その瞬間だった。
胸の奥に激しい痛みが走る。
「っ……!」
魔力を使いすぎた反動だった。
膝をつく。
視界が揺れる。
「レイン!」
リリアの叫びが聞こえる。
ヴァルグは拘束を引きちぎり、不敵に笑った。
「限界か。」
ゆっくりとレインへ歩き出す。
「継承者も、この程度とは。」
誰も間に合わない。
そう思った、その時――。
神殿全体が黄金色の光に包まれた。
祭壇にいたセレスが両手を広げている。
「封印術式、起動。」
神殿中に刻まれていた古代文字が一斉に輝き始めた。
ヴァルグの足元へ巨大な封印陣が広がる。
「これは……!」
初めてヴァルグの表情が変わった。
レインはゆっくり立ち上がる。
「今しかない。」
天空の腕輪が、これまでにないほど強く輝き始めていた。
第28話 天空の封印 へ続く。




