第25話 天空神殿の決戦
ゼノスの足音が、静かな神殿に響く。
その後ろには十数人の黒翼教団員。
全員が魔法を展開し、レインたちを包囲していた。
「逃げ場はない。」
ゼノスは穏やかな口調で言う。
「《天空の腕輪》だけ渡してくれれば、命までは取らない。」
レインは一歩前へ出た。
「断る。」
迷いはなかった。
ゼノスは小さく息をつく。
「そう言うと思っていた。」
その瞬間、教団員たちが一斉に動いた。
炎や氷の魔法が神殿内を飛び交う。
「散開!」
リリアの声で三人は左右に飛ぶ。
レインは咄嗟に右手をかざした。
腕輪が青く輝く。
「これは……!」
自然と魔法陣が展開される。
「《風壁》!」
渦巻く風が巨大な壁となり、飛んできた炎をかき消した。
「新しい魔法か!」
クロードが驚く。
「腕輪の力みたいだ!」
レイン自身も驚いていた。
魔導書を開かなくても、新しい魔法が使える。
⸻
リリアは二人の教団員を相手に剣を振るう。
金属音が神殿中に響いた。
「邪魔だ!」
鋭い一撃で一人の武器を弾き飛ばす。
もう一人が背後から魔法を放とうとした瞬間、
「させるか!」
クロードが短剣を投げる。
教団員は慌てて魔法を中断し、後ろへ飛び退いた。
「助かった!」
「借り一つな!」
二人は自然に連携を取っていた。
旅を続ける中で、互いの動きが少しずつ分かるようになっていた。
⸻
一方、レインの前にはゼノスが立っていた。
「成長したな。」
「王都で会った時とは別人だ。」
レインは静かに魔導書を開く。
「あなたを止める。」
「止められるかな?」
ゼノスが右手を上げる。
黒い魔法陣が広がる。
「《黒炎槍》。」
十本以上の黒い炎の槍が生まれ、一斉にレインへ向かう。
「《風壁》!」
風の障壁で防ぐ。
だが、黒炎は風を突き破った。
「っ!」
レインは横へ飛ぶ。
一本が肩をかすめる。
服が焼け、痛みが走った。
「普通の炎じゃない……。」
黒い炎は石床を溶かしている。
魔力を侵食する特殊な魔法だった。
ゼノスは距離を詰める。
「まだ終わりじゃない。」
黒い剣を生成し、斬りかかってくる。
レインも魔導書を閉じ、短剣を抜いた。
剣と短剣がぶつかる。
ギィン!
力では敵わない。
一歩、また一歩と押し込まれる。
⸻
その時だった。
「レイン!」
リリアが叫ぶ。
教団員を振り切り、ゼノスへ突撃する。
ゼノスはすぐに後ろへ飛び、距離を取った。
「二対一か。」
「いや。」
クロードも並ぶ。
「三対一だ。」
三人は自然と横一列に立つ。
ゼノスはその姿を見て、小さく笑った。
「なるほど。」
「壁画の通りだ。」
「継承者は仲間と共に強くなる。」
その言葉にレインは違和感を覚える。
「壁画を知っているのか?」
「もちろん。」
ゼノスは答える。
「我々は古代文明を何百年も研究してきた。」
「七つの遺跡も、七つの遺産も。」
「すべて知っている。」
「だったら、どうしてこんなことをする!」
レインが叫ぶ。
ゼノスは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「この世界を守るためだ。」
予想外の答えだった。
「……え?」
「古代文明は魔王に滅ぼされた。」
「だが、今の人間にも同じ過ちが繰り返されようとしている。」
「だから我々は、圧倒的な力を手に入れる必要がある。」
レインは首を振る。
「力だけじゃ何も守れない。」
「それは理想論だ。」
二人の考えは、決して交わらなかった。
その瞬間。
神殿全体が激しく揺れる。
ゴゴゴゴゴ……。
セレスが青ざめた表情で叫ぶ。
「まずいです!」
「封印が崩れています!」
部屋の中央にあった祭壇へ、大きな亀裂が走る。
そこから黒い魔力が噴き出した。
ゼノスも表情を変える。
「何だ……?」
誰も予想していなかった事態だった。
黒い霧は天井まで立ち上り、一つの巨大な人影を形作っていく。
低く、不気味な笑い声が神殿中に響いた。
「……ようやく、目覚められる。」
その声に、セレスは震えながら呟く。
「そんな……。」
「封印されていた《災厄の使徒》が……。」
レインとゼノスは同時に、その黒い影へ視線を向けた。
敵同士であるはずの二人が、この瞬間だけは同じ脅威を前に立ち尽くしていた。
第26話 災厄の使徒 へ続く。




