第22話 守護竜の試練
谷全体に青白い魔法陣が広がる。
雪原に描かれた古代文字が淡く輝き、冷たい空気がさらに張り詰めた。
レインたちは思わず身構える。
「始まる……」
リリアは剣を抜いた。
クロードも短剣を構える。
しかし。
シルヴァは動かなかった。
巨大な翼をゆっくりと畳み、静かにレインを見つめている。
「剣を収めよ。」
低く響く声。
「……え?」
レインは思わず聞き返した。
「この試練は力を競うものではない。」
「継承者の心を知るための試練だ。」
リリアとクロードは顔を見合わせる。
「戦わないのか?」
クロードが尋ねる。
「必要なら戦う。」
シルヴァは静かに答えた。
「だが、まずは資格を確かめる。」
そう言うと、シルヴァは右前脚をゆっくり地面へ下ろした。
魔法陣が眩く輝く。
次の瞬間。
レインの視界が白く染まった。
⸻
気がつくと、レインは見覚えのある場所に立っていた。
「ここは……」
王都の冒険者ギルド。
追放される前の景色だった。
「あれ?」
周囲では冒険者たちが笑いながら酒を飲んでいる。
聞き覚えのある声。
「レイン。」
振り向く。
そこにはカイルが立っていた。
かつての仲間たちもいる。
誰もが笑顔だった。
「依頼へ行こう。」
カイルが手を差し伸べる。
「あの日」のように。
レインは一歩踏み出しかける。
だが。
違和感があった。
「……違う。」
この光景はもう存在しない。
過去だ。
シルヴァが見せている幻だ。
レインはゆっくり首を振った。
「俺は戻れない。」
その瞬間。
ギルドの景色が音もなく崩れ始めた。
ガラスのように砕け散り、闇へ溶けていく。
⸻
次に現れたのは、高校時代の実家だった。
夕暮れのリビング。
食卓には家族が座っている。
「レイン。」
母が優しく笑う。
「今日は好きなハンバーグよ。」
胸が締めつけられる。
懐かしい。
もう帰れない時間。
「どうしたの?」
父が不思議そうに尋ねる。
「座りなさい。」
レインはゆっくりと目を閉じた。
「……ごめん。」
「今は行かなきゃいけない場所がある。」
そう呟いた瞬間。
景色は再び光に包まれる。
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目を開けると、白銀の谷へ戻っていた。
リリアとクロードも目を覚ます。
「今の……」
クロードは額の汗を拭う。
「幻?」
「たぶん。」
リリアも息を整えている。
どうやら三人とも、それぞれ違う幻を見せられていたらしい。
シルヴァは静かに頷いた。
「未練を断ち切ったか。」
レインは一歩前へ出る。
「完全じゃない。」
「でも、前に進みたい。」
シルヴァは満足そうに目を細めた。
「その答えで十分だ。」
巨大な翼を広げる。
風が雪を巻き上げた。
「最後の試練だ。」
その瞬間。
シルヴァの身体から白銀の光が溢れる。
雪が空へ舞い上がり、一体の竜が現れた。
「……もう一匹?」
クロードが驚く。
しかし違った。
それは光でできた竜。
シルヴァ自身が生み出した分身だった。
「この幻影を倒せ。」
「継承者よ。」
「仲間と共に。」
レインは魔導書を開く。
リリアは剣を構え、クロードは短剣を握り直した。
三人は互いに目を合わせる。
言葉はいらなかった。
これまで旅をしてきた時間が、その信頼を作っていた。
「行こう。」
レインの一言で三人は同時に駆け出す。
守護竜が与えた最後の試練。
それは、一人の力ではなく、「仲間を信じる心」が試される戦いだった。
第23話 三人の連携 へ続く。




