第21話 白銀の谷
翌朝。
山岳都市エルミナは、まだ朝靄に包まれていた。
冷たい風が吹き抜け、街の屋根には薄く雪が積もっている。
レインたちは出発の準備を終え、街の門へ向かった。
見送りに来たミレイが、防寒用の厚いマントを三人に手渡す。
「山の天気は変わりやすいです」
「吹雪になったら無理はしないでください」
「ありがとうございます」
レインはマントを羽織りながら頭を下げた。
「それと」
ミレイは一枚の地図を差し出す。
「魔導書が示した場所を私なりに書き写しました」
「もし途中ではぐれても、この地図を頼りにしてください」
「助かります」
クロードは嬉しそうに地図を受け取った。
「絶対に神殿を見つけて帰ってきます!」
ミレイは少し笑いながら頷いた。
「期待しています」
⸻
街を出て数時間。
山道は次第に険しくなっていく。
雪も深くなり、一歩進むたびに足を取られる。
「思ったよりきついな……」
クロードが息を切らす。
「まだ半分も来てないぞ」
リリアが振り返る。
「嘘だろ……」
「本当だ」
レインは苦笑した。
それでも三人は歩き続ける。
昼を過ぎた頃。
視界が開けた。
そこには、一面が銀世界の谷が広がっていた。
「ここが……」
レインは思わず息を呑む。
白銀の谷。
雪に覆われた谷には一本の川が流れ、その水は驚くほど透き通っていた。
周囲は静かだった。
風の音しか聞こえない。
「綺麗だな」
クロードが感動したように呟く。
「でも静かすぎる」
リリアは剣の柄に手を添える。
「何かいる」
レインも同じことを感じていた。
魔導書が微かに熱を帯びている。
近い。
何かがいる。
その時。
パキッ。
雪を踏む音がした。
三人は一斉に振り向く。
だが誰もいない。
「気のせいか?」
クロードが周囲を見回す。
次の瞬間。
ドォン!!
地面が大きく揺れた。
「なっ!?」
雪煙が舞い上がる。
谷の奥。
巨大な影がゆっくりと立ち上がった。
白い鱗。
黄金色の瞳。
折りたたまれた巨大な翼。
長い尾が雪を払うたびに、地面が震える。
「竜……」
レインは言葉を失った。
全長は二十メートル以上。
人間とは比べものにならないほど大きい。
まさに伝説の存在だった。
白銀の竜はゆっくりと三人を見つめる。
その瞳には敵意はない。
しかし圧倒的な威圧感があった。
「逃げるか?」
クロードが小声で聞く。
リリアは首を横に振る。
「無理だ」
「あの速さなら追いつかれる」
竜が一歩前へ出る。
その瞬間。
レインの荷物の中で《始原の魔導書》が強く輝いた。
白銀の竜はその光を見ると、目を細める。
そして。
静かに口を開いた。
「……久しいな」
低く、落ち着いた声。
人の言葉だった。
三人は目を見開く。
「しゃ、喋った!?」
クロードが思わず叫ぶ。
竜は小さく鼻を鳴らした。
「人の子よ」
「その魔導書を持つ者が再び現れるとは」
レインはゆっくり前へ出る。
「あなたは……」
竜は静かに名乗った。
「我が名はシルヴァ。」
「天空神殿を守る最後の守護竜だ。」
その名を聞いた瞬間。
魔導書がさらに強く輝き始めた。
まるで、再会を喜んでいるかのように。
シルヴァはレインを見つめ、穏やかに言った。
「継承者よ。」
「神殿へ進みたければ、まず我の試練を越えてみせよ。」
その言葉とともに。
谷全体を包むような巨大な魔法陣が足元に広がった。
レインたちは、第二の試練へと足を踏み入れる。
第22話 守護竜の試練 へ続く。




