第17話 黒翼教団との戦い
王都の西地区。
空を覆うように、黒い魔法陣が次々と浮かび上がる。
「……十人?」
リリアが目を細めた。
「いや」
ノアは首を振る。
「十二人です」
全員が黒いローブに身を包み、白い仮面をつけている。
中央には、昨日研究院に現れた男。
その周囲だけ空気が重かった。
王都の人々は建物の中へ避難し始める。
騎士団も広場へ集まってきた。
「住民の避難を優先しろ!」
隊長の怒号が飛ぶ。
「冒険者は騎士団と連携しろ!」
王都は一瞬で戦場へ変わった。
⸻
仮面の男がゆっくりと前へ出る。
「初めまして……と言うべきかな」
レインは黙って男を見つめる。
男は小さく笑った。
「私は黒翼教団幹部、ゼノス。」
「継承者を迎えに来た。」
「断る」
レインは即答した。
ゼノスは肩をすくめる。
「残念だ。」
「なら少し力づくになる。」
その瞬間。
黒翼教団の魔法使いたちが一斉に魔法を放った。
炎。
氷。
雷。
十二種類もの魔法が王都へ降り注ぐ。
「散開!」
ノアが叫ぶ。
騎士団が魔法障壁を展開する。
しかし。
すべてを防ぐには数が多すぎた。
「リリア!」
「分かってる!」
二人は左右へ飛び出す。
リリアは建物へ向かう炎の魔法を剣で切り裂いた。
一方、レインは魔力を集中させる。
「《蒼雷の壁》!」
巨大な青い障壁が広がる。
氷の槍が次々と弾かれた。
避難していた人々から安堵の声が漏れる。
「すごい……」
若い騎士が呟いた。
「あれが古代魔法……。」
⸻
ゼノスはその様子を見ても表情を変えなかった。
「やはり面白い。」
「継承者に相応しい。」
ゆっくりと右手を上げる。
黒い魔法陣が足元に現れた。
その瞬間。
王都全体の空気が震えた。
「何だ?」
レインが顔を上げる。
地面が揺れている。
嫌な予感がした。
次の瞬間。
ドォォォン!!
石畳が砕けた。
地中から巨大な腕が現れる。
黒い岩のような皮膚。
鋭い爪。
さらにもう一本。
もう一本。
やがて。
四メートルを超える魔物が姿を現した。
「ゴーレム……?」
リリアが息を呑む。
だが普通のゴーレムではない。
全身を黒い魔力が覆っている。
「魔導ゴーレムです。」
ノアが険しい表情で言う。
「古代文明の兵器……!」
ゼノスは満足そうに頷いた。
「その通り。」
「黒翼教団が復元した最高傑作だ。」
魔導ゴーレムはゆっくりと拳を握る。
そして。
王城へ向かって歩き始めた。
「止めろ!」
騎士団が突撃する。
だが。
ガキィィン!!
剣がまるで通じない。
一人、また一人と吹き飛ばされる。
「強すぎる……!」
リリアも歯を食いしばる。
レインは魔導ゴーレムを見つめる。
頭の中に《始原の魔導書》の知識が浮かぶ。
見覚えのある紋様。
見覚えのある構造。
「違う……。」
レインが小さく呟く。
「どうした?」
リリアが聞き返す。
「あれは未完成だ。」
魔導書の知識が教えてくれる。
本来の魔導ゴーレムではない。
急いで作られた粗悪品。
だからこそ。
「弱点がある。」
レインの目が細くなる。
胸の中央。
黒い魔力の核。
「あそこだ。」
リリアはすぐに理解した。
「壊せばいいんだな?」
「ああ。」
「なら時間を稼げ!」
リリアは地面を蹴った。
一直線に魔導ゴーレムへ向かう。
「こっちだ!」
剣で何度も攻撃を加える。
魔導ゴーレムの注意がリリアへ向く。
その隙に。
レインは静かに目を閉じた。
魔力が集まる。
今までで最大の量だった。
空気が震える。
空には青白い魔法陣が何重にも重なっていく。
ノアもエルドも息を呑んだ。
「あの魔力量は……。」
ゼノスだけが笑っていた。
「見せてもらおう。」
「継承者の本当の力を。」
レインはゆっくり目を開く。
青く輝く瞳。
右手を天へ掲げる。
そして。
古代文字で静かに詠唱を始めた。
それは。
《始原の魔導書》に記された、初めての上位古代魔法だった。
第18話 蒼雷の裁き へ続く。




