第16話 黒翼教団
王都襲撃から一夜が明けた。
街はまだ騒然としていた。
壊れた建物の修復が始まり、騎士団や冒険者たちが周囲を警戒している。
研究院の会議室では、緊急会議が開かれていた。
参加しているのは院長エルド、調査官ノア、そして王国騎士団の幹部たちだ。
レインとリリアも同席していた。
机の中央には、昨日ノアが拾った黒い羽根が置かれている。
「改めて説明します」
ノアが静かに口を開いた。
「この羽根は『黒翼教団』の証です。」
部屋が静まり返る。
「黒翼教団は約三百年前から存在すると言われる秘密結社です。」
「目的は一つ。」
「古代文明の力を手に入れ、世界を支配すること。」
リリアが腕を組む。
「そんな連中が今まで捕まらなかったのか?」
「姿を現さなかったからです。」
ノアは首を横に振る。
「存在は噂程度でした。」
「ですが昨日の襲撃で、その存在が事実だと証明されました。」
レインは黒い羽根を見つめる。
「俺を狙っているんですよね。」
「その可能性が高いでしょう。」
ノアは迷わず答えた。
「あなたが古代魔法の継承者であることを、彼らは知っています。」
「なぜ知っているんですか?」
その問いには、誰もすぐには答えられなかった。
⸻
会議が終わると、エルドがレインを呼び止めた。
「少し付き合ってくれ。」
案内されたのは研究院の地下だった。
石造りの長い階段を下りていく。
地下には巨大な扉があった。
「ここは……?」
「研究院の禁書庫だ。」
エルドが扉に魔法をかける。
重々しい音を立てて扉が開いた。
中には古い本や巻物が無数に並んでいる。
千年以上前の資料もあるらしい。
「ここなら、君に見せられるものがある。」
エルドは一冊の古い本を取り出した。
革表紙は色あせ、今にも崩れそうだった。
ページを開く。
そこには一枚の絵が描かれていた。
レインは息を呑む。
「これ……。」
絵には七人の魔法使いが描かれていた。
その中央には、一冊の本を持つ青年。
その本は――。
「始原の魔導書。」
レインが呟く。
エルドは頷いた。
「約千年前、七人の継承者が魔王と戦ったと記録されている。」
「しかし、生き残った者はいなかった。」
ページをめくる。
最後のページには短い文章だけが残されていた。
『継承者は再び現れる。その時、世界は再び選択を迫られる。』
レインは黙ってその文章を見つめた。
「……俺が、その継承者なのか。」
「断言はできない。」
エルドは静かに言う。
「だが偶然とは思えない。」
「始原の魔導書に選ばれた以上、君は何らかの使命を背負っている。」
重い言葉だった。
レインはまだ普通の大学生のような年齢だ。
世界を救う使命なんて、想像もしていなかった。
⸻
研究院を出ると、リリアが入口で待っていた。
「遅かったな。」
「少し話を聞いてた。」
「難しい話か?」
「かなり。」
リリアは苦笑する。
「そういうのは苦手だ。」
「俺も。」
二人は顔を見合わせて笑った。
その時だった。
ドンッ!
遠くで爆発音が響く。
今度は研究院ではない。
王都の西地区だ。
黒煙が空へ昇っていく。
「またか!」
リリアが剣を抜く。
ノアも建物から飛び出してきた。
「違います!」
彼の表情は昨日以上に険しかった。
「魔物ではありません!」
「黒翼教団です!」
西の空には、黒いローブを着た人影が何人も立っていた。
十人以上。
その全員が黒い仮面をつけている。
そして中央には、昨日研究院に現れた仮面の男が立っていた。
男はレインを見つけると、小さく笑う。
「ようやく見つけた。」
静かな声だった。
しかし王都中に響くほど不気味だった。
「継承者レイン。」
「今度こそ、お前を連れて行く。」
その言葉と同時に。
十人を超える黒翼教団の魔法使いたちが、一斉に魔法陣を展開した。
王都最大の戦いが、今始まろうとしていた。
第17話 黒翼教団との戦い へ続く。




