第15話 王都襲撃
「魔物が王都に現れました!」
研究員の叫び声が廊下に響く。
レインたちはすぐに部屋を飛び出した。
窓の外を見ると、研究院の正門付近から黒煙が立ち上っている。
人々が悲鳴を上げながら逃げ惑っていた。
「王都で魔物なんて……」
リリアが険しい表情で呟く。
王都アルディアは高い城壁と結界に守られている。
普通の魔物が侵入できる場所ではない。
「ノア君、状況は?」
エルドが尋ねる。
ノアは窓から視線を外さず答えた。
「少なくとも三体。どれもAランク相当です」
「結界が破られた形跡はありません」
「内部に直接出現した可能性があります」
部屋の空気が張り詰める。
転移魔法。
もし本当にそんなことが可能なら、王都の安全は根本から揺らぐ。
「私も行く」
レインは一歩前へ出た。
だがエルドは首を横に振る。
「君を狙った可能性もある」
「それでもです」
レインの声は落ち着いていた。
「目の前で人が襲われているのに、何もしないわけにはいきません」
リリアも頷く。
「私も同じだ」
エルドは二人を見つめ、静かに息を吐いた。
「……分かった」
「だが決して無理はするな」
⸻
研究院の外へ出ると、街は混乱していた。
商店の窓ガラスは割れ、人々が必死に避難している。
その先には巨大な魔物が立っていた。
二本の角。
灰色の皮膚。
岩のように硬い腕。
「オーガか」
リリアが剣を抜く。
だが普通のオーガではない。
身体中から黒い魔力が漏れ出している。
「魔力暴走個体……」
ノアが低く呟いた。
「普通よりはるかに強い」
その時。
オーガが近くの家へ拳を振り上げた。
家の前では、小さな女の子が立ち尽くしている。
「危ない!」
レインは駆け出した。
考えるより先に身体が動く。
「レイン!」
リリアも後を追う。
オーガの拳が振り下ろされる。
間に合わない。
そう思った瞬間。
レインの手が自然と前へ伸びた。
「《蒼雷の壁》!」
青白い魔法陣が展開される。
轟音とともに、オーガの拳が弾き返された。
少女は驚いた表情のまま座り込む。
「もう大丈夫」
レインは少女を抱き上げ、安全な場所へ運んだ。
「ありがとう、お兄ちゃん……」
震える声だった。
レインは優しく笑う。
「早く避難して」
少女は何度も頷き、母親のもとへ走っていった。
その姿を確認すると、レインは振り返る。
オーガは再び立ち上がっていた。
怒りで咆哮を上げる。
「レイン!」
リリアが横に並ぶ。
「合わせるぞ!」
「ああ!」
オーガが突進してくる。
リリアは正面から飛び込んだ。
剣で注意を引きつける。
「こっちだ!」
オーガが拳を振るう。
リリアは紙一重でかわした。
その隙にレインが魔力を集中させる。
頭の中で術式が組み上がる。
以前よりも速い。
魔導書の力に少しずつ慣れてきている。
「《雷槍》!」
青白い雷が一本の槍となって放たれる。
一直線にオーガの胸へ突き刺さった。
ドォン!
雷が弾ける。
オーガの身体が大きく揺れた。
「今だ!」
リリアが跳ぶ。
全身の力を込めた一撃。
「はあああっ!」
剣がオーガの首を斬り裂いた。
巨体がゆっくりと崩れ落ちる。
地面が揺れた。
静寂。
周囲で見ていた人々から歓声が上がる。
「助かった!」
「冒険者だ!」
「ありがとう!」
レインは少し照れくさそうに頭をかいた。
「まだ終わってない」
ノアが空を見上げる。
その視線を追う。
研究院の屋上。
黒いローブをまとった人物が立っていた。
顔は仮面で隠されている。
「やはり継承者は王都に来ていたか」
男の声が風に乗って響く。
レインは目を細めた。
「誰だ」
仮面の男は笑う。
「名乗る必要はない」
「近いうちに、また会うことになる」
その瞬間、男の足元に黒い魔法陣が現れる。
転移魔法。
「待て!」
レインが叫ぶ。
しかし男は一瞬で姿を消した。
その場には黒い羽根が一枚だけ残されていた。
ノアがそれを拾い上げる。
「黒翼教団……」
「知っているんですか?」
レインが尋ねる。
ノアは険しい表情で頷いた。
「古代文明の力を狙う秘密結社です」
「長年その存在は噂だけでしたが……」
彼は羽根を強く握りしめた。
「どうやら、本当に動き始めたようですね」
レインは研究院の屋上を見つめた。
新たな敵。
そして、自分を「継承者」と呼ぶ者。
古代魔法を巡る戦いは、思っていた以上に大きなものだった。
第16話 黒翼教団 へ続く。




