第14話 魔術研究院の秘密
ノアに案内され、レインとリリアは研究院の最上階へ向かった。
廊下を進むたび、壁に並ぶ本棚が増えていく。
どれも古びた本ばかりだ。
魔法史。
古代文明。
魔物学。
見たこともない分野の本がぎっしりと並んでいる。
「全部読むのに何年かかるんだ……」
レインが思わず呟く。
「何十年でも足りませんよ」
ノアが微笑んだ。
「この研究院には、千年以上かけて集められた資料が保管されています」
やがて一番奥の部屋へたどり着く。
重厚な木の扉には、複雑な魔法陣が刻まれていた。
ノアが扉に手をかざす。
青白い光が走り、ゆっくりと扉が開いた。
部屋の中央では、一人の老人が本を読んでいた。
真っ白な髪と長い髭。
年齢は七十代ほどだろうか。
しかし、その目には力が宿っていた。
「院長、お連れしました」
ノアが頭を下げる。
老人は本を閉じ、ゆっくり立ち上がった。
「初めまして、レイン君」
穏やかな笑みを浮かべる。
「私は王都魔術研究院の院長、エルド・クロイスだ」
レインも軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「君の話は聞いているよ」
エルドは近くの椅子を勧めた。
「まずは座って話そう」
四人はテーブルを囲むように座る。
エルドはしばらくレインを見つめると、静かに口を開いた。
「単刀直入に聞こう」
「君は古代遺跡で何を見つけた?」
部屋の空気が変わる。
レインは迷った。
だが、ここまで来て隠し続ける意味はない。
「……一冊の本です」
「始原の魔導書、ですね?」
ノアが静かに言った。
レインは驚いた。
「知っているんですか?」
エルドはゆっくり頷く。
「存在だけはね」
「だが、実物を見た者は誰もいなかった」
「伝説だと思われていた」
レインは荷物から魔導書を取り出した。
テーブルの上に置く。
その瞬間だった。
部屋中の魔法陣が淡く光り始める。
本が共鳴している。
エルドは目を見開いた。
「本物だ……」
震える声だった。
「まさか、本当に存在していたとは」
ノアも息を呑んでいた。
しばらく誰も話さなかった。
やがてエルドがゆっくりと本へ手を伸ばす。
しかし。
触れる寸前で、青白い光が弾けた。
バチッ。
「!」
エルドは手を引く。
「触れない……」
レインは不思議そうに見ていた。
「どういうことですか?」
「この魔導書は君を所有者として認識している」
エルドは苦笑した。
「他人が触れようとすると拒絶されるようだ」
レインは改めて魔導書を見る。
本当に自分だけのものなのか。
そんなこと、まだ信じられなかった。
⸻
その後、エルドは一枚の古い地図を広げた。
「これを見てほしい」
王国全土が描かれた地図だった。
しかし、いくつかの場所に赤い印が付いている。
「これは?」
「古代遺跡の位置だ」
レインは地図を見る。
アストラ村の遺跡にも印がある。
そして、全部で七つ。
「七か所……」
エルドは頷いた。
「古い文献にはこう記されている」
『七つの遺跡を巡りし継承者、世界の扉を開かん』
「継承者……」
レインは小さく呟く。
ブラックガーディアンもそう呼んでいた。
「おそらく君は、その継承者なんだろう」
部屋が静まり返る。
エルドは続けた。
「そして、始原の魔導書は七つの遺跡を巡ることで、本来の力を取り戻すのかもしれない」
レインは地図を見つめた。
つまり。
旅はまだ始まったばかりなのだ。
「全部巡れば、俺の力のことも分かるんですか?」
「可能性は高い」
「魔王についても?」
その質問に、エルドの表情が曇る。
「……それは分からない」
「だが、一つだけ確かなことがある」
エルドは真剣な眼差しで言った。
「古代文明は魔王との戦いによって滅んだ」
「もし本当に魔王が復活するなら、君は避けては通れない存在になる」
レインは黙って頷いた。
覚悟はまだできていない。
それでも、逃げるつもりはなかった。
その時だった。
ドンッ!
突然、研究院の外から大きな爆発音が響いた。
部屋が揺れる。
本棚の本が何冊も落ちた。
「何だ!?」
ノアが窓へ駆け寄る。
外を見ると、研究院の正門付近から黒煙が上がっていた。
「侵入者です!」
廊下から研究員の叫び声が聞こえる。
「魔物が王都に現れました!」
レインは立ち上がる。
リリアも剣の柄を握った。
エルドの表情が険しくなる。
「まさか、このタイミングで……」
誰かが。
あるいは何かが。
レインの存在を狙って動き始めていた。
第15話 王都襲撃 へ続く。




