第18話 蒼雷の裁き
レインの足元に、巨大な魔法陣が広がる。
青白い光が石畳を覆い、古代文字がゆっくりと回転し始めた。
周囲の空気が震える。
風が止み、空が暗くなる。
王都中の人々が思わず空を見上げた。
「何だ、あれ……」
「空が光ってる……」
騎士たちも戦う手を止める。
誰もが息を呑んでいた。
⸻
レインはゆっくりと目を閉じる。
頭の中で魔導書のページがめくられていく。
一つひとつの古代文字が鮮明に浮かぶ。
その意味が自然と理解できた。
「これなら……」
静かに息を吸う。
そして、詠唱を始めた。
「天に眠る蒼き雷よ――」
低く響く声。
古代語で紡がれた言葉が空気を震わせる。
魔力が一気に集まっていく。
空には無数の雷雲が生まれた。
晴れていた空が、一瞬で夜のように暗くなる。
リリアが振り返る。
「レイン……」
その魔力の大きさに思わず息を呑む。
今までの魔法とは比べものにならない。
⸻
魔導ゴーレムは本能的に危険を感じたのか、レインへ向かって走り出した。
大地が揺れる。
巨体とは思えない速さだった。
「しまった!」
ノアが叫ぶ。
まだ詠唱が終わっていない。
このままでは間に合わない。
その瞬間。
リリアが飛び出した。
「行かせるか!」
剣を握り締め、真正面から立ち向かう。
魔導ゴーレムの拳が振り下ろされる。
リリアは横へ飛び、紙一重でかわす。
石畳が砕け散った。
「こっちだ!」
何度も攻撃を仕掛ける。
傷はほとんど付かない。
それでも注意を引き続ける。
「早くしろ……!」
額から汗が流れる。
体力も限界が近い。
それでも一歩も引かなかった。
⸻
レインは詠唱を続ける。
「すべてを貫き、闇を祓え――」
魔法陣がさらに大きくなる。
青白い雷が空を走る。
ゴロゴロという雷鳴が王都全体に響いた。
ゼノスは静かにその光景を見つめていた。
「やはり……」
仮面の奥で笑う。
「始原の魔導書は本物か。」
⸻
ついに詠唱が終わる。
レインは静かに右手を前へ向けた。
「古代魔法――」
一瞬、世界が静かになる。
そして。
「《蒼雷の裁き》!」
轟音。
天が裂けた。
無数の雷が一本の巨大な光となり、空から降り注ぐ。
それは魔導ゴーレムの胸へ一直線に突き刺さった。
ドォォォォォォン!!
王都全体が揺れる。
眩い閃光に誰も目を開けていられない。
衝撃波が四方へ広がり、黒い魔力を吹き飛ばしていく。
やがて光が消えた。
そこには。
胸に大きな穴を開けた魔導ゴーレムが立っていた。
数秒間、静止する。
そして。
バラバラと音を立てて崩れ落ちた。
黒い魔力は霧のように消えていく。
静寂。
王都中が息を呑んだ。
次の瞬間。
「勝った!」
「倒したぞ!」
歓声が湧き上がる。
騎士たちも住民たちも、レインへ視線を向けていた。
リリアは剣を鞘に収め、大きく息を吐く。
「派手すぎるだろ……」
苦笑しながらレインを見る。
しかし、その笑顔はすぐに消えた。
ゼノスがまだ立っていた。
魔導ゴーレムを失っても動じていない。
「見事だ。」
静かに拍手をする。
「予想以上だった。」
レインは魔力切れで膝をつく。
「まだ終わってない……」
ゼノスは頷く。
「今日はここまでにしよう。」
「継承者。」
「七つの遺跡を巡れ。」
「すべての力を取り戻した時、我々は再び現れる。」
その言葉を残し、黒い魔法陣が足元に広がる。
「待て!」
リリアが駆け出す。
しかし間に合わない。
ゼノスの姿は黒い光に包まれ、一瞬で消えた。
残ったのは一枚の黒い羽根だけだった。
⸻
夕暮れ。
戦いを終えた王都は少しずつ落ち着きを取り戻していた。
研究院の屋上。
レインは街を見下ろいていた。
そこへエルドが歩いてくる。
「お疲れ様。」
「ありがとうございます。」
「だが、これで確信した。」
エルドは真剣な表情になる。
「黒翼教団は七つの遺跡を狙っている。」
「彼らより先に遺跡へ辿り着かなければならない。」
レインは静かに頷いた。
「次の遺跡はどこですか?」
エルドは机の上に地図を広げる。
そして、一つの場所を指差した。
王国東部。
険しい山脈の中。
「第二の遺跡。」
「《天空神殿》だ。」
レインはその地図を見つめる。
新たな旅が始まる。
今度は王都の外。
未知の遺跡へ。
そして、その旅路でさらなる仲間や強敵との出会いが待っていることを、まだ誰も知らなかった。
第2章 王都編 完
第19話 天空神殿への旅路 へ続く。




