戦いの後
エマーヴァの所在を翼水晶で辿った時と同様、イルアンは誓約の宝珠を通じて黄金竜の方角を知ることができた。五日ほどでその動きが止まったから、どうやら中央大陸の故郷に戻りついたのだろうと想像が着く。
「つまり、呼びかけに応じて駆けつけてくるのにも同じだけ掛かるわけだ。」
暦の上で誓約の宝珠を転がしながら、イルアンは天井を見上げた。
「エルドー達を見送ってから、もう二十日か。」
大水晶の山脈から鉱山都市に戻った一行は、新たな鉱脈をもたらした功労者として盛大な歓待を受けた。
(竜脈を辿ったことが知られたら、また面倒に巻き込まれると思ったけど。)
そんなイルアンの危惧も、シェマーニが機転を利かせてくれたおかげで事なきを得ている。なんでも、自由都市の水流に魔水晶の粒子が混ざっていたのに気づいて、川を遡ったら大水晶に辿り着いた、とかなんとか。
「自由都市と鉱山都市が大水晶を活かす協定を結んだことで、三都市連合は解消。白の森を封鎖していた軍も、撤収を始めています……商業都市の面々は、しばらく首が回らないでしょうね。ウィルロ様は、賠償金のほとんどを彼らに求めましたから。」
久しぶりに顔を出したロメに情勢を教えてもらって、イルアンは第十二大陸に平和が戻ったことを知った。
「セテは、どうしていますか?」
「まだ大水晶のところさ。もう防備は万全だろうが、あそこが気に入ってしまったらしい。」
工作員はエルドーだけとは限らないからと、セテはもう十日も大水晶の横で警戒の思念を伝え続けている。
『大水晶が警戒態勢にあれば、魔導師を何百人揃えても竜脈を曲げるなんて出来っこないわ。そうなると工作員はその警戒を解くしかない。でも、それには私が掛けたのと同じだけ時間が必要になるのよ。』
セテは、竜の鱗を持つ者への警戒を解く過程で、大水晶が敵意を剥く際の機序について理解を深めたらしい。二度と竜脈に手を出させまいというその執念には、付き合いの長いイルアンも呆れ顔だ。
「魔草を使えば黒の森とも通話できるから、まったく寂しく無いんだと。そんなわけで、俺とリアネスは二人で留守番ってわけさ。」
鼻を向けられたリアネスは、軽く肩をすくめた。
「私、ずっと海を越える方法について調べ回っているのよ?一日中、実家で天井を見つめている人と一緒にされたくないわ。」
イルアンは苦笑しつつ、意地悪く目を細めた。
「で、海を渡る方法は見つかったのかい?」
「う…」
護衛仲介所の支配人に協力してもらって自由都市をつぶさに調べてみたが、第十一大陸から渡ってきた五番護衛士の言葉を解する者は見つからなかった。海を越える者は、数年、いや、数十年に一度も現れないと見て良いだろう。
「すごぉくたまに連絡鳥は行き来しているみたいなんだけど、両側からお金持ちが道楽で飛ばしているだけなのよね。五番さんに読んでもらったけど、内容も日記みたいなのばっか。あっちの大陸がどんな状況かなんて、全然わからないわ。」
「行き来が出来なければ、儲け話も無いし、連絡する理由も無い。道理だな。」
北方に比べて南方の海は荒い。例え晴天であったとしても、漁船すら沖へ向かわないのだ。
となると。
イルアンは机上に転がった宝珠を見つめて眉根を寄せた。
「唯一の希望はこれなんだけど…ウィルロとレミアスは、果たしてこれを割らせてくれるかな。文字通り、大陸の総力をあげて確保した戦利品だ。」
「あの、それについてなのですが、こんなものを預かっていまして。」
ロメは荷物を掻き分けて書状を取り出すと、二人の前に広げて読み上げ始めた。




