ANOTHER EPISODE 仮想遊戯
暫くぶりの春うららかな午後。昼寝をするのに、学校の机ほど最適なベッドはない。勿論体が痛くなるし、睡眠は深くないし、不健康であるが、彼女は非常に頭がお粗末な上、勉強嫌いの努力嫌いである。何故この高等学校まで進学できたのかわからない。外では白い蝶が舞い、照りつける太陽に命を叫ぶ蝉が柔らかく啼いている。その蝉が止まっている巨木の葉は紅い。
「おい、ペラ。ペラッカさんやい。終わったぞ、起きろ」
「あと五分…」
「ふざけんな。俺達が願い下げだ」
ぱこ、と、ノートで頭を叩かれた。ちぇっと唇を尖らせて、顔を上げると、いっひっひ、と、笑う旧友の眩しい笑顔が顔いっぱいに広がる。
「なあ、おい。ずっと寝てばかりで背中凝っただろ? バーべキューもう始まるぞ! 起こして来いってさ。ははっ! 野菜切ってたチビ共なんて傑作だったぜ! お前、なーんもしなかったんだから、トントロは食うなよ、俺のだ」
「いい、あたしタン食べれれば」
うーん、と、身体を伸ばし、立ち上がる。欠伸を堪えきれずにもう一つすると、覗きこまれた。
「なあ、そんなに寝て、今夜大丈夫か?」
「うん、大丈夫だと思うよ。いっぱい食べれば眠くなるよ」
「牛になるぞ? そうしたらタンはセルフサービスだな」
「やだ、あたし乳牛が良い。そんで、沢山の子供に囲まれるんだ」
「誰との子供産むんだよ」
「うーん、まだイイオトコいないなあ」
「そりゃここじゃあ、居るめえな」
欠伸が伝染する。その内に、バーベキューの中心になっていた少女がトングを持ったまま手を振って呼んだ。
「何してるの! もうトントロ焼けるわよ!」
「ヒョワ~ッ! 火柱上がった~!」
「ちょっと退いて、カルビ食べたい、カルビ!」
「あ、待てこら! 俺より先に食うんじゃねえ!」
慌てて彼女が走り出す。遠くなっていく足音を、自分も早歩きで追いかけた。
「姉さん、姉さん! 俺の分のカルビも取ってあるよな!?」
「今日何人参加すると思ってるの! トントロだって選り分けてないんだから、早く早く!」
「もういいかな?」
「てめっ! 話聞こえてるのにとるんじゃねー! 俺のだ、俺の!」
「ぼーりょくはんたい、せんしゅぼーえー!」
「違うよ、先手必勝だよ。ほらほら、慌てないで、火傷するんじゃないよ、小さい子もいるんだから」
「ははうえー、ピーマン食べなきゃだめ?」
「焼肉のたれで食べればなんでも美味しいから大丈夫大丈夫」
うえ、と、舌を出す男児を見て、二人の幼女がけらけらと笑い、自慢するように舌を出して大きな口でピーマンを頬張った。
「………。うえっ」
「こら! 吐き出さない! ちゃんと食べなさい!」
「そういう兄さんだって、人参食べてない。私の娘が切った人参が食べられないの? ホラ、彼を見習って、全部食べなさい!」
「はは…。美味しく食べられる人が食べればいいですよ」
苦笑して焦げかけた肉を積極的に取る彼の皿に、一人の子供が、上等なトントロを入れる。もう一枚入れようとするところに、彼が気付いた。
「ん? これは?」
「こげてないおにくもおいしいよ?」
「はは、そうだね。でもぼくは焦げたお肉が好きなんだ。だからこれは、君のお母様におあげ」
新しい皿を渡され、子供がぱっと振り向く。自分の姿をすぐに見つけ、ひまわり色に笑って大きく手を振った。
「おかあさま! おかあさまー! お肉が焼けましたよ!」
「ペラ、早くいらっしゃい、カリエラが食べちゃうわ」
「なんだよ姉さん、そういう自分の皿だってホルモンだらけじゃねえか!」
「あ! メヴィちゃん、そのお肉ウチが焼いてたやつー!」
「なによぉ、アンタは息子にお手本見せてあげなさいよ!」
「ははうえもピーマンきらいだもんね?」
「いっけないんだ、いっけないんだ! ピーマンもたまねぎもにんじんも、皆で切ったのに!」
「ああいうとこ、お前に似ちゃったよなあ…」
「何よ、オニーチャン。オジサンとして手本見せてあげたら?」
「まあまあ、美味しいと思う人が食べましょうよ」
「栄養が偏るよ! この私の目の前でテブになるのは許さないからね!」
「おかあさまー! おかあさまったら! はやくー!」
ペラッカは笑って、足を速めた。
「そう急かさないで、今行くよ」
『仮想遊戯』 完
20180903 Mon




