EPISODE17 ペンション・ハーヤー
翌日。やっぱりレラーとメヴァーエルは遅刻した。出発前にカリエラにこってりと絞られ、その間ペラッカ達はやることがない。衣装、基装備を解除しバンダナとエプロンをして、二人は地下ワインセラーの掃除をしていることになった。あまりにも口が暇で、サンダルフォナにばらしてみることにした。
「ねえねえサン、あたしね、昨日パラベラム会に行ったんだよ」
サンダルフォナは一応相槌を打つが、あまり興味を持ってはいなさそうだ。
「それでね、あたし見ちゃった! カリエラって好きな人がいるんだよ!」
「…へえ」
「なんか豆もやしみたいな人だった」
「母性が刺激されるんじゃない?」
どちらかというとカリエラは甘えている感じがしたが、そう言われてみればそうなのかもしれない。事実カリエラは学生時代から男らしいとか逞しいとか言われていたが、本人だって、しなを作りたいときだってあるんだろう。
「素敵な人だった?」
「え?」
「だから、その人って素敵な人なの?」
「司祭だよ」
「メヴィには秘密よ」
「うん」
メヴァーエルの趣味は酷くどうでもいいが、態々人の夢を壊そうとは思っていない。
夢と言えば、カリエラとサンダルフォナは異様に仲が良い事で有名だったが、本人達はそれを自覚しているんだろうか?
「そう言えばサン、サンとカリエラって…」
「おーい、説教終わったから準備しろー」
漸く満足したのか、カリエラが若干疲れたような声で上から呼んだ。すぐに片づけて、サンダルフォナは階段を駆け上がる。ペラッカもそれに続いた。広間では、しっかり装備を身につけ、最早恥もへったくれも感じていない三人が、思い思い待機している。サンダルフォナは自分の準備をする前に、長い説教で喉を乾かしたカリエラにミルクティーを淹れた。本当に良く気がきく。
「俺が飲んでる間に着替えてこい。防具も忘れるなよ」
「うん」
はて、防具なんてあっただろうか? とはいえ、ペラッカの装備は時間がかかるので、大急ぎでかけ上がる。
コンテナの中には綺麗にアイロン掛けがされ、新品同様のマントと、青い長そでと鶯色のズボン、それに頭のサークレット。いつ見ても頭の痛いセットだが、仕立屋を何度か経由したおかげで大分見目も良くなった。…それでも大分イタい。何だか泣けてきた。これは自分の物凄い黒歴史になるんじゃないだろうか。
「どうしたのペラ? マントがつけられない?」
はっと顔を上げると、サンダルフォナはベールをかぶるところだった。髪の毛を縛り、かつらをかぶる前の様に白いキャップで頭を固めている。結構面白い。
「…いいなあサンって」
「…まあ、察するよ」
サンダルフォナでもカリエラのセンスは駄目だと思っているらしい。ほらほら着替えて、と促しもしないが、下からカリエラが呼んでいるので、渋々着替える。こんなナリでも擦り傷や切り傷を防いでくれるのは事実なので、そう否定もできない。
「…あれ、防具ってそれ?」
サンダルフォナが両手に嵌めているのは、皮の手袋のようだった。まあ、あの軍手はボロボロだったから、当然だろう。
「人を打つと結構な衝撃が来るんだって。肘や手首を痛めないようにってカリエラが仕立ててくれたのよ」
「何かその気遣いって違う気がする」
「鉄じゃないだけカリエラも鬼じゃないってことよ」
鉄でつくるつもりだったのか!? ペラッカは身震いした。今回の旅ではカリエラの拳骨以外にも脅威が出てきたらしい。
「そう言えば、あたしって守られるだけなのに防具がないよね」
「だって貴方小さすぎて合う防具がないのよ」
「…武器もないね」
「だから貴方が小さすぎるの」
「………あたしってホント何もないね」
聖女なのに、主役なのに。いじけていると、再び下からカリエラに呼ばれた。あまり待たせると早速ダメージを喰らいそうなので、溜息をつきながらも戻る。
「遅いぞー! 早く行こうぜ!」
「カリエラちゃんは、新しい銃の性能試したいんでしょ~」
「コルトだって何百回言えば分かる、このアンポンタン」
ペラッカも本物は初めて見る。オートマチックだったか、ベレッタよりも大きい気がする。
「これがコルト? なんか大きいね」
「コルトのいいところはなあ」
「カスタムでグリップセーフティで事故が減ったんでしょ」
「何か色々違うぞ。お前、変な覚え方してんな」
ずっぱりと言われた。はあ、と溜息をつく。行くぞ、とノリノリのカリエラは、またペラッカのカバンに五人分の弁当を詰め込んだ。水のボトルが少し多い気がする。夏だからだろう。
「ねえねえカリエラ、何であたしって防具ないの?」
「は?」
「武器もないじゃん」
「だってお前使う体力ないじゃん」
「いや否定しないけど…。いや否定する! あたしにも何か欲しい!」
何を言ってるんだとメヴァーエルとレラーは顔を見合わせた。しかしペラッカにとっては大問題である。何せサンダルフォナでさえもそういう装備品が出来てしまったのだ。何だか一人だけ除者みたいで嫌なのだ。カリエラは思ったよりも真剣に考えてくれていたが、裏を返せばそれは、これからペラッカを護りきれないかもしれないと言う不安の表れでもある。ペラッカはそれに気付き、自分が今墓穴を掘ったと冷や汗を流した。
「一理あるな。じゃ、これ使え。お下がりだけど」
そう言って、カリエラはペラッカに東で使っていたベレッタとマガジンを手渡した。何故渡されたのか、自分で言いだしたのに良く分からず、時間が止まる。
「何だよ。修道会の支給品じゃ不満か?」
「…や、あたし撃ったことないし。てか素人に持たせたら危ないって言ってたじゃん」
「んなもん、外で練習させるにきまってるだろ」
後悔したが、もう遅い。
「おーし、聖女の武器も決まったことだし、行くぞー」
「あの、あたしが欲しかったのって防具…」
「おー! カリエラちゃん、修行の成果見せてあげるー!」
「ねえねえ、次の目的地はどこなの? どこで天使様を召喚するの?」
「あー、南」
「南と言えば海だね!」
「………」
海。生まれて初めての海。ああ、沈む沈む、気分が海底へ。




