第97話 魔石の調査
翌日。
冒険者ギルドの一室には、数人の職員と支部長が集まっていた。
机の上に置かれているのは――
昨日、美月が持ち込んだ魔石。
通常の魔石よりも明らかに大きく、その内部には濃密な魔力が凝縮されている。
昨日の時点では、支部長の鑑定Lv.5ですら何も読み取ることができなかった。そのため、上層部へ調査を依頼した。
そして今日。
一人の専門家が、このギルドへ派遣されてきた。
「こちらが例の魔石です」
職員が魔石を指し示す。
「分かりました」
専門家は魔石を見つめる。
その人物が持つ鑑定能力は――
Lv.8。
世界でも極めて高い鑑定能力だった。
「では、確認します」
専門家が魔石へ手をかざす。
「《鑑定》」
魔石へ魔力が流れ込む。
しばらくして――
「…………」
専門家の目がわずかに見開かれた。
「……鑑定できました」
「本当ですか?」
「ああ」
職員たちが身を乗り出す。
「何が分かりますか?」
専門家は表示された情報を確認する。
「魔力含有量、魔力純度、魔力密度……確認できます」
支部長が尋ねる。
「どの程度だ?」
「……非常に高いです」
「Aランク級か?」
「それ以上です」
部屋が静かになる。
「この魔石は、現在確認されている最高品質の魔石と比較しても、かなり高い数値を示しています」
「Sランク級よりも?」
「単純な比較なら、そうなります」
専門家は魔石を見つめる。
「ただ……」
「何だ?」
「これほどの魔力を持つ魔石は、私も見たことがありません」
◇
その後。
ギルドは過去の魔石データを集めた。
Aランクダンジョン。Sランクダンジョン。過去に記録された最高品質の魔石。
それらと今回の魔石を比較する。
「…………」
専門家が資料を確認する。
「やはり、異常です」
「どれほど違う?」
「これまでの最高記録を明らかに上回っています」
職員が息を呑む。
「そんなに……?」
「はい」
専門家は淡々と答える。
「魔力含有量だけではありません。純度も、密度も高い」
支部長は腕を組む。
「つまり、これまで確認された魔石の中でも最高クラスということか」
「……最高クラス、という表現では足りないかもしれません」
「…………」
その言葉に、全員が黙り込む。
◇
「では、この魔石を生み出した魔物は?」
支部長が尋ねる。専門家は少し考える。
「魔石そのものから、魔物の種類を特定することはできません」
「そうか……」
「ただ」
専門家が続ける。
「これほどの魔石を生み出すには、それ相応の魔力を持った魔物である必要があります」
「どの程度だ?」
「少なくとも、これまで一般的に確認されてきた魔物とは比較できないでしょう」
職員たちは顔を見合わせる。
「では、過去の記録には?」
「該当する魔物はありません」
「討伐記録も?」
「ありません」
「目撃記録は?」
「確認できません」
支部長は黙って魔石を見る。
これほどの魔石を生み出した魔物。それほどの存在なら、何らかの記録が残っていてもおかしくない。
だが――
何もない。
「……おかしいな」
支部長が呟く。
「これほどの魔石を残す魔物が存在していたなら、何かしらの記録があるはずだ」
「はい」
専門家も頷く。
「ですが、現時点では確認できません」
◇
しばらくして。
一人の職員が口を開いた。
「……神崎さんに、もう一度確認したほうがいいのでは?」
全員の視線が集まる。
「この魔石を持ち込んだのは神崎さんです」
「ああ」
「昨日は、知人から預かったとしか聞いていません」
支部長は少し考える。
「……まだいい」
「ですが――」
「彼女が話せない事情があるのかもしれない」
「…………」
「必要になれば、こちらから確認する」
「分かりました」
職員は頷いた。
◇
夕方。
専門家は調査を終え、ギルドを後にした。
残された支部長は、一人で保管室へ向かう。
厳重に保管された魔石。その前に立つ。
「…………」
鑑定Lv.5では、何も見えなかった。しかし、鑑定Lv.8なら情報を見ることができた。
魔力含有量。魔力純度。魔力密度。
どれも異常なほど高い。
それでも――
この魔石を生み出した魔物の正体は分からない。どこにいたのかも。どのような姿だったのかも。
そして――
誰に倒されたのかも。
支部長は魔石を見つめる。
「……これほどの魔石を生み出した魔物が、どこかにいた」
ならば。その魔物を倒した者がいる。
「…………」
支部長は静かに呟いた。
「……一体、誰が倒したんだ?」
その答えを知る者は――
まだ、誰もいなかった。




