第94話 美月の確信
夜。
蓮が眠ったあと、美月は一人でリビングに座っていた。
今日一日。本当に、いろいろなことがあった。
十年ぶりに再会した蓮。散髪をして、髭を剃って。
整えられた蓮の顔を見たとき――
美月は、思わず息を止めた。
昔から、蓮は整った顔をしていた。けれど。十年の間に変わった身体。そして、整えられた髪と髭。
そこに現れた蓮の姿は――
思わず見惚れてしまうほどだった。
胸が、少しだけ高鳴った。自分でも驚くくらいに。
「……なんか、ドキドキする」
あのときのことを思い出して、美月は少しだけ頬を緩める。
「……ふふ」
けれど。
今日の出来事を思い返していくうちに。あることが頭から離れなくなった。
魔石。
蓮が取り出した大量の魔石。その数は、千個を超えていた。
それだけでも十分に驚いた。
けれど――
本当に美月を驚かせたのは、数ではない。
あの魔石は。普通の魔石とは、明らかに違っていた。
魔力含有量。魔力純度。そして、魔石そのものの大きさ。
どれも異常なほど高い。
Aランク冒険者として、これまで数え切れないほどの魔石を見てきた。それでも――あんな魔石は、一度も見たことがなかった。
しかも。それが一つではない。大量にある。
蓮にとっては、何でもないことのようだった。
「…………」
美月は、あの光景を思い出す。
そして――
もう一つの魔石を思い出した。
古龍の魔石。
「…………」
あれは――
今思い出しても、身体が震える。
ただ見ただけだった。それなのに。身体が勝手に震えた。息ができなくなった。
全身から汗が出て、呼吸すらまともにできなかった。
あの魔石に凝縮された魔力。あれほどの魔力を、美月は今まで感じたことがなかった。
見ているだけで、本能的に危険を感じるほどだった。
「…………」
そして。
蓮は、その魔石を持っていた。あれを倒した。
そう考えると――
蓮の強さが、どれほどのものなのか。美月には、もう想像すらできなかった。
Aランク冒険者である自分ですら、見ただけで圧倒された。そんな魔石を残す存在を――蓮は倒している。
それだけではない。自分ですら見たことのない魔石を、千個以上も持っている。
「…………」
美月は、静かに目を閉じる。
そこで。以前から頭の片隅にあった存在を思い出した。
Unknown。
世界ランキング第一位。七年間、不動の一位に君臨している冒険者。その正体を知る者は、誰もいない。
蓮が十年間、ダンジョンに閉じ込められていたと聞いたとき。美月は、もしかしたら――と思った。
けれど。まだ、確信はなかった。
今日までは。
大量の魔石。Aランク冒険者である自分ですら見たことのない魔石。
そして――
見ただけで自分を圧倒した、古龍の魔石。
それらを持っているのが、蓮だった。
「…………」
もう。疑う理由がなかった。
「……蓮が、Unknownなんだ」
美月の中で。疑いは、確信へと変わっていた。
けれど――
美月は、蓮が眠っている部屋を見る。
今の蓮は。世界ランキング第一位のUnknownではない。
十年ぶりに帰ってきた――
自分の幼馴染だ。
今日だって。普通の服を買って。外で食事をして。スマホでゲームをして。
そんな普通の時間を過ごしていた。
「…………」
もし蓮がUnknownだと知られたら。すべてが変わってしまう。
世界中から注目される。冒険者たちが集まってくる。依頼も、取材も、きっと増える。
そうなれば――
蓮は普通の生活を送れなくなる。
十年間。生きるために戦い続けた蓮。
ようやく帰ってきたのに。また戦うことを求められるなんて――
そんなことは、させたくなかった。
「……誰にも言わない」
美月は静かに呟く。
「……蓮には、普通に生きてほしい」
普通に起きて。普通に食べて。普通に笑って。
普通に毎日を過ごしてほしい。
それだけでいい。
「……今度は、私が守るから」
美月は、眠っている蓮を見つめる。
蓮がUnknownだと――
もう確信している。
それでも。その事実を、誰にも伝えるつもりはなかった。
蓮の――
十年ぶりの日常を守るために。




