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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第一部 10年ぶりの帰還

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第9話 生き残るための選択

 さらに時間が過ぎた。


 蓮は、もう魔物を見たら逃げるというだけでは生きていなかった。


 戦える相手。


 逃げるべき相手。


 近づいてはいけない場所。


 それを、自分で判断するようになっていた。


     ◇


 ある日。


 蓮はいつもの水場へ向かっていた。


 その途中で、足を止める。


「……?」


 何かがおかしい。


 いつもなら聞こえる水の音がしない。


 蓮はゆっくりと岩陰から顔を出した。


 水場の前に、見慣れない魔物がいた。


 大きい。


 以前戦った狼より、明らかに大きかった。


「……」


 蓮は息を殺す。


 戦えるか。


 頭の中で考える。


 武器はある。


 逃げ道もある。


 だが、勝てる保証はない。


 蓮は魔物を観察した。


 足。


 牙。


 身体の向き。


 周囲の地形。


 そして、自分が逃げられる方向。


「……やめよう」


 蓮は槍を下ろした。


 戦わない。


 水場を諦める。


 そして、ゆっくりと後退する。


 以前の蓮なら、食料や水を求めて無理に近づいていただろう。


 けれど。


 今は違う。


 生き残るためには、戦わないことも必要だった。


     ◇


 蓮は別の場所へ向かった。


 新しい水場を探す。


 しばらく歩くと、小さな水たまりを見つけた。


「……あった」


 水を確認する。


 濁っている。


 そのまま飲むのは危険だ。


 蓮は以前の経験を思い出す。


 まず少量だけ口にする。


 身体に異常がないことを確認する。


 それから少しずつ飲んだ。


「……これなら大丈夫」


 蓮は水を確保した。


 完璧ではない。


 けれど、生きていくには十分だった。


     ◇


 その日の夜。


 蓮は岩陰で休んでいた。


 以前より、眠れるようになっていた。


 もちろん、完全に安心しているわけではない。


 物音がすれば目を覚ます。


 魔物の気配を感じれば身体が勝手に反応する。


 それでも。


 最初の頃のように、一晩中震えていることはなくなった。


 蓮は目を閉じた。


 すると。


 頭の中に、突然声が響いた。


《生存適応が発動しました》


「……え?」


 蓮は目を開いた。


《継続的な環境適応を確認》


《危険察知能力が向上しました》


 蓮はしばらく黙っていた。


「……危険察知?」


 周囲を見る。


 何も変わっていない。


 けれど。


 少しだけ。


 空気の違いが分かる気がした。


 遠くにいる魔物。


 水場の方向。


 危険な場所。


 以前より、わずかに感じ取りやすい。


「……これが、生存適応……?」


 蓮は自分の手を見る。


 最初にスライムを倒したときに与えられた力。


 あの時は、何の意味があるのか分からなかった。


 今になって。


 少しだけ、その意味が分かった。


 この力は、自分を強くするためだけのものではない。


 この場所で生き残るための力なのだ。


     ◇


 蓮はその夜、初めて少しだけ安心した。


 自分には、この場所で生き残るための力がある。


 なら。


 まだ諦めなくていい。


「……帰れる」


 小さく呟く。


 そして目を閉じる。


 眠りにつく直前。


 蓮は知らなかった。


 これから先、自分がどれだけ強くなるのか。


 このダンジョンが、どれほど広いのか。


 そして――


 自分がいつか、この場所そのものを理解するほどの存在になることを。


 今はまだ。


 ただ、生き残るだけだった。

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