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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第二部 10年ぶりの日常、そして再び

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第86話 10年ぶりの再会

「……美月?」


 蓮の口から、その名前がこぼれた。


「……蓮?」


 二人は、しばらく何も言わなかった。


 十年。あまりにも長い時間だった。


 目の前にいる男は、確かに自分の知っている蓮に似ている。


 けれど――


 十年前の少年とは、あまりにも姿が違っていた。


 美月は、ゆっくりと蓮へ近づく。


「……蓮」


「……うん」


「……少しだけ、聞いてもいい?」


「……いいよ」


 美月は蓮の目を見る。


「子供の頃……私たちが最初に作った秘密基地、覚えてる?」


「…………」


 蓮は少し考える。


「……家の裏の、木の間」


「……うん」


 美月の目が揺れる。


「そこで……私たち、何を約束した?」


「…………」


 蓮はしばらく黙っていた。


 そして――


「……大人になったら、二人で星を見に行く」


「…………」


「街の明かりがないところで」


 美月の目から、涙がこぼれた。


「……覚えてたんだ」


「……うん」


 それは――


 二人しか知らない約束だった。


 最初に作った秘密基地。誰にも教えなかった場所。そこで二人だけで交わした、将来の約束。


 その場所も。そこで何を話したのかも。約束の内容も。


 知っているのは――


 目の前にいる蓮だけだった。


「……蓮」


 美月は目の前の男を見る。


 髭に覆われた顔。不揃いな髪。見慣れない黒い戦闘装備。


 十五歳の少年とは、あまりにも違う。


 それでも――


「……間違いない」


 美月は涙を拭う。


「……蓮だ」


 十年間。ずっと探し続けた。もう二度と会えないと思ったこともあった。


 それでも、諦めなかった。


「……本当に、帰ってきたんだね」


「……うん」


 蓮は静かに頷いた。


 その時。周囲から声が聞こえてきた。


「……あれ?」


「神崎美月じゃない?」


「元モデルの……?」


「今はAランク冒険者の《アストラ》のリーダーだよね?」


「本物だ……」


 美月は周囲を見る。すでに何人かがスマートフォンを取り出していた。


「…………」


 まずい。


 このままでは、人が集まってくる。そして――蓮まで騒ぎに巻き込まれてしまう。


 そんな美月の様子を、警察官も察した。


「……神崎さん」


「はい?」


「ここでは、少し騒ぎになりそうですね」


 警察官は周囲を見回す。


「よければ、パトカーのところで少しお話を伺いましょう」


「……お願いします」


 警察官は周囲の人々に声をかけながら、二人をパトカーへ案内する。


「こちらへどうぞ」


 美月が蓮を見る。


「蓮、行こう」


「……うん」


 二人は警察官について歩き、パトカーへ向かった。


 後部座席のドアが開かれる。


「どうぞ」


 美月が先に乗り込み、蓮も続いて乗り込む。ドアが閉まる。外のざわめきが、少しだけ遠くなった。


 警察官が蓮を見る。


「君、名前は?」


「……黒瀬蓮」


 そして、美月を見る。


「失礼ですが、この方をご存じなんですか?」


「はい。幼なじみです」


「そうですか」


 警察官は少しほっとしたように頷いた。


「実は先ほど、この辺りで不審な人物がいるという通報がありまして」


「……そうだったんですね」


「はい。それで、こちらで何をしているのか聞いたんですが……」


 警察官は窓の外にある更地を見る。


「『帰ってきた』と答えられまして」


「…………」


「ここは更地ですし、どういう意味なのか分からなくて、少し困っていたところなんです」


 美月は蓮を見る。


「……そうだったんですね」


 警察官は、先ほど二人が交わしていた会話を思い出す。


 秘密基地。二人だけの約束。星を見に行くという話。


 少し不思議な話ではあった。


 けれど――


 十年ぶりに再会した二人の間に、警察官が口を挟めるような雰囲気ではなかった。


 だから、何も聞かなかった。


 美月は蓮を見る。


「……大丈夫です」


 そして警察官へ向き直る。


「この人は、私が一緒にいます」


「そうですか」


 警察官は蓮を見る。


「特に何か問題を起こしたわけでもありませんし、神崎さんが一緒なら大丈夫そうですね」


「はい」


「では、今日は気をつけてください」


「分かりました」


 警察官は軽く会釈する。そして、二人をパトカーから降ろした。


 美月は蓮を見る。


「……行こう」


「……どこへ?」


「私の家」


「…………」


「帰る場所、ないんでしょ?」


「……うん」


「だったら、うちに来て」


 蓮は少し黙った。


「……いいのか?」


「もちろん」


 美月は笑った。


「十年ぶりに帰ってきたんだから」


 蓮は小さく頷いた。


「……分かった」


 二人は並んで歩き始めた。


 十年ぶりの再会。


 そして――


 蓮の新しい日常が、ここから始まる。

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