第73話 十年の軌跡3
70階層で魔剣を手に入れた蓮は、さらに深い階層へ進んでいった。
魔剣には、これまで身につけてきた属性魔力を纏わせることができる。
火。
水。
風。
木。
土。
これまで覚えてきた魔法を、状況に応じて剣へ纏わせる。
魔法と剣。
二つを組み合わせることで、蓮の戦い方はさらに広がっていった。
◇
71階層。
そこから先は、雷が絶え間なく降り注ぐエリアだった。
空には黒い雲が広がり、遠くで何度も雷鳴が響いている。
地面には焦げた跡がいくつも残っていた。
「……雷の階層か」
蓮は周囲を見渡した。
その直後――
空から雷が落ちた。
「……!」
蓮はとっさに横へ跳ぶ。
轟音とともに、目の前の地面が弾け飛んだ。
「危ないな……」
雷は速い。
これまでの魔法とは違い、見てから避けるのが難しい。
さらに、その雷を利用する魔物もいた。
身体に電気を纏った魔物。
雷を放つ魔物。
雷そのもののような動きをする魔物。
蓮は戦いながら、魔物の動きを観察していった。
《魔力感知》を使う。
魔物の身体を流れる魔力。
雷を放つ瞬間に生まれる魔力の変化。
蓮はそれを少しずつ捉えていく。
「……速い」
それでも、以前よりは魔力の流れが見えていた。
31階層で水魔法を覚えた頃とは、まるで違う。
《魔力感知》のレベルが上がったことで、魔物の魔法を理解する速度も上がっている。
蓮は何度も魔物と戦った。
雷を避ける。
魔力の流れを見る。
自分の魔力を動かす。
何度も失敗する。
それでも繰り返す。
そして――
『生存適応が発動しました』
蓮の周囲に、小さな電気が走った。
「……!」
指先から、淡い光が弾ける。
「……雷魔法」
新しい力だった。
最初は小さな放電しかできない。
だが、使うたびに威力が増していく。
雷の流れを理解する。
魔力を流す。
雷へ変える。
それを何度も繰り返す。
やがて、蓮は戦闘中でも雷魔法を使えるようになっていった。
◇
71階層から先。
雷のエリアでの戦いが続いた。
魔物を《鑑定》する。
弱点を確認する。
《魔力感知》で魔力の流れを見る。
そして、相手に合わせて魔法を選ぶ。
雷属性の魔物に対しては、土魔法を使う。
それだけで簡単に勝てるわけではない。
魔物そのものの身体能力も高い。
蓮は魔力装甲で攻撃を受け、魔剣に属性魔力を纏わせる。
状況に応じて魔法を切り替えながら戦う。
さらに《封魔の手袋》と《重力の靴》を使った鍛錬も続けていた。
ただし、実戦では負荷を調整する。
危険を感じれば、すぐに通常の状態へ戻す。
鍛錬では限界を押し広げる。
実戦では生き残ることを優先する。
その繰り返しによって、蓮の戦闘能力は少しずつ高まっていった。
そして――
80階層。
そこだけは、それまでの階層とは空気が違った。
巨大な空間。
天井には黒い雲が渦巻いている。
雷が絶え間なく落ちていた。
その中央に、一体の魔物が立っている。
全身を黒い鱗に覆われた巨大な獣。
四本の脚。
背中には鋭い棘が並び、口元からは青白い電気が漏れている。
身体の周囲には、絶えず雷が走っていた。
蓮は《鑑定》を使う。
『名称:雷獣王』
『種別:魔物』
『状態:良好』
『弱点:土属性』
「……土か」
蓮は魔剣を握った。
刀身へ土魔法を流す。
刃に土の魔力が纏う。
「これなら……」
雷獣王が咆哮する。
次の瞬間――
大量の雷が蓮へ降り注いだ。
「……!」
蓮は走る。
雷を避ける。
地面が次々と砕けていく。
雷獣王が一気に距離を詰めてくる。
蓮は魔剣を振る。
土の魔力を纏った刃が、雷獣王の身体を斬り裂いた。
だが――
「浅い……!」
雷獣王が身体を捻る。
鋭い爪が迫る。
蓮は身体強化で避ける。
そのまま距離を取る。
雷が降る。
魔物が突進する。
蓮は魔剣を握り直した。
土魔法だけでは足りない。
火。
水。
風。
木。
雷。
これまで身につけた魔法を使い分ける。
魔剣へ纏わせる属性も変える。
それでも、雷獣王は倒れない。
「……強い」
蓮は攻撃を避け続ける。
だが、雷の一撃が完全には避けきれなかった。
「……!」
青白い閃光が身体を貫く。
蓮の身体が吹き飛ぶ。
地面を何度も転がった。
身体中に激痛が走る。
立ち上がろうとする。
だが、力が入らない。
「……くっ」
視界が揺れる。
身体から血が流れている。
今までにないほどのダメージだった。
雷獣王が近づいてくる。
蓮は剣を握ろうとする。
指先に力が入らない。
「……まだ……」
立たなければ。
ここで倒れるわけにはいかない。
その瞬間――
『生存適応が発動しました』
蓮の身体に変化が起こった。
傷口が急速に塞がっていく。
「……え?」
流れていた血が止まる。
裂けた皮膚が戻っていく。
痛みが急速に引いていく。
蓮は自分の身体を見つめた。
そして――
『スキル《高速自己再生》を習得しました』
「……自己再生?」
驚いている暇はなかった。
雷獣王が再び襲いかかってくる。
蓮は立ち上がった。
まだ完全ではない。
それでも、動ける。
「……まだ戦える」
蓮は魔剣を握り直した。
土の魔力を刀身へ集中させる。
さらに身体強化を使う。
雷獣王が突進する。
蓮は正面から迎え撃った。
攻撃をかわす。
懐へ入り込む。
土の魔力を纏った魔剣を振る。
雷獣王の身体に亀裂が走る。
そこへ土魔法を叩き込む。
地面が盛り上がり、魔物の身体を拘束する。
雷獣王が暴れる。
蓮はその隙を逃さない。
魔剣を振り下ろす。
――轟音。
巨大な身体が地面へ倒れた。
雷が消えていく。
静寂が戻る。
「……終わった」
蓮は息を吐いた。
自分の身体を見る。
さっきまであった傷は、ほとんど残っていない。
「……これが、《高速自己再生》」
新しく手に入れた力。
それは、これまで何度も限界を越えてきた蓮の身体が、生き残るために手に入れた力だった。
◇
ボス部屋の奥。
そこには、一つの宝箱が置かれていた。
蓮はゆっくりと近づく。
そして、蓋を開けた。
「……腕輪?」
中に入っていたのは、銀色の腕輪だった。
蓮は手に取り、《鑑定》を使う。
『名称:魔力貯蔵の腕輪』
『種別:魔道具』
『効果:最大MPとは別に魔力を蓄えることができる』
「……魔力を貯めておけるのか」
蓮は腕輪を身につける。
試しに魔力を流してみる。
腕輪へ少しずつ魔力が吸い込まれていった。
「……なるほど」
自分のMPとは別に、魔力を蓄えておける。
それなら、魔力を使わない時間に少しずつ貯めておけばいい。
蓮は毎日のように、少しずつ魔力を注ぐことにした。
一日ではわずかな量。
それでも、積み重ねれば大きな力になる。
戦いのない時間にも、蓮は少しずつ準備を続けた。
蓮は魔力貯蔵の腕輪を見つめた。
これからは、戦いのない時間にも魔力を蓄えていく。
新たな力を手に入れた蓮は、さらに深い階層へ進んでいった。
◇




