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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第一部 10年ぶりの帰還

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第7話 生きる

 翌朝。


 蓮は寒さで目を覚ました。


「……寒い」


 身体を起こす。


 背中が痛い。


 首も痛い。


 まともな場所で寝ていないのだから当然だった。


 昨日の夜は、ほとんど眠れなかった。


 少し眠っては物音で目を覚ます。


 周囲を確認する。


 また眠る。


 それを何度も繰り返した。


「……眠い」


 蓮は目をこすった。


 それでも、立ち上がる。


 ここでじっとしていても何も変わらない。


 食べ物を探さなければならない。


 水も必要だ。


 そして、出口も探さなければならない。


「……絶対に帰る」


 蓮はそう呟いた。


 その言葉だけを胸に、歩き始めた。


     ◇


 最初の数日は、とにかく苦しかった。


 食べられるものが分からない。


 飲める水も分からない。


 魔物がどこにいるのかも分からない。


 何度も失敗した。


「……これ、食べられるかな」


 壁際に生えていた植物。


 蓮は恐る恐る、その一部を口に入れた。


「……苦っ」


 すぐに吐き出す。


 別の植物を見つける。


「……こっちは?」


 今度は強烈な酸味だった。


「うわ……」


 蓮は顔をしかめる。


 それでも、試していくしかなかった。


 空腹には勝てない。


 少しだけ食べる。


 体調に変化がないか確認する。


 大丈夫なら、次から少しだけ量を増やす。


 そうやって、一つずつ覚えていった。


     ◇


 魔物との遭遇も増えた。


 最初は逃げるしかなかった。


 小さな魔物なら石を使う。


 大きな魔物なら逃げる。


 それでも、逃げ切れないこともある。


「……っ!」


 狼の爪が腕をかすめた。


 血が出る。


「痛っ!」


 蓮は転がるように逃げた。


 岩陰へ飛び込む。


 魔物が追ってくる。


 蓮は息を殺した。


 しばらくすると、足音が遠ざかっていった。


「……はぁ……」


 蓮は腕を見る。


 傷は深くない。


 それでも痛い。


 蓮は服の裾を破り、傷口を縛った。


 病院なんてない。


 薬もない。


 だから、自分で何とかするしかない。


 数日後。


 傷は少しずつ塞がっていった。


「……前より早い?」


 蓮は傷口を見つめる。


 気のせいかもしれない。


 けれど。


 昨日より身体が動く。


 昨日より長く歩ける。


 昨日より少しだけ寒さに耐えられる。


 ほんのわずかな変化だった。


 それは《生存適応》によるものだった。


 けれど、蓮自身はまだそのことを理解していなかった。


     ◇


 一か月。


 二か月。


 三か月。


 時間が過ぎていった。


 蓮は少しずつ、この場所で生きる方法を覚えていった。


 水場を覚えた。


 安全な場所を覚えた。


 危険な場所を覚えた。


 魔物の鳴き声を覚えた。


 足跡を見れば、近くに何がいるのかも少しずつ分かるようになった。


 眠る前には必ず周囲を確認する。


 食料は見つけたら少しずつ確保する。


 危険な場所には近づかない。


 そして――


 魔物から逃げるだけではなくなった。


「……来る」


 遠くから足音が聞こえた。


 蓮は岩陰に身を隠す。


 魔物が近づいてくる。


 以前なら、ただ震えていた。


 今は違う。


 足音。


 速度。


 大きさ。


 気配。


 それらを少しずつ感じ取れるようになっていた。


「……小さい」


 蓮は石を握った。


 魔物が近づいてくる。


 そして――


「今!」


 石を投げる。


 魔物が怯んだ。


 蓮は一気に距離を詰める。


 石を振り下ろす。


 ――ドンッ。


 魔物が倒れる。


 蓮は息を切らしながら、その場に立っていた。


「……倒せた」


 以前より、ずっと楽だった。


 自分でも分かる。


 身体が少しずつ強くなっている。


 そして何より――


 魔物の動きが見えるようになってきていた。


     ◇


 半年。


 一年。


 蓮はもう、最初の頃の少年ではなくなっていた。


 もちろん、まだ強くはない。


 強力な魔物には逃げる。


 危険な場所には近づかない。


 傷を負えば苦しむ。


 空腹にもなる。


 寒さにも震える。


 それでも。


 最初の頃とは明らかに違っていた。


 蓮は一人で生きられるようになっていた。


 安全な寝床を作る。


 水を確保する。


 食料を探す。


 魔物を避ける。


 必要なら戦う。


 それが少しずつ日常になっていった。


     ◇


 ある夜。


 蓮は岩陰に座っていた。


 周囲は暗い。


 ただ、近くの壁に生えている淡く光る苔が、ぼんやりと周囲を照らしている。


 最初にこの場所へ来た頃なら、その光だけでも不気味に感じただろう。


 今では違う。


 蓮にとって、この光は夜を知らせるものの一つになっていた。


 蓮は苔の光を見つめながら、膝を抱える。


「……」


 静かな時間。


 魔物の気配はない。


 今日は安全だ。


 蓮はゆっくり息を吐いた。


 そして、ふと両親のことを思い出す。


 父親の声。


 母親の笑顔。


 学校へ向かう朝。


 美月との会話。


 全部、遠い昔のことのように感じる。


「……父さん」


 返事はない。


「……母さん」


 静かな洞窟。


 当然、誰も答えない。


 蓮は少しだけ俯いた。


 そして、胸の中で呟く。


 ――俺、生きてるよ。


 誰にも届かない言葉。


 それでも。


 蓮は毎日、生き続けた。


 帰るために。


 そしていつか。


 必ず外へ出るために。


 そのためなら。


 今日も生きる。


 明日も生きる。


 何年かかっても――


 絶対に、生きて帰る。


 十五歳だった少年の「生きる」という戦いは、まだ始まったばかりだった。

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