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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第一部 10年ぶりの帰還

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第6話 スライム

 スライムが跳ねた。


「……!」


 蓮は横へ飛び退いた。


 ――べちゃっ。


 さっきまで蓮がいた場所に、半透明の身体が落ちる。


「危な……」


 蓮は息を整えた。


 相手は狼ほど大きくない。


 けれど、油断はできない。


 ここで生き残るためには、目の前の魔物を倒す必要がある。


 蓮は手にした石を握り直した。


「……いける」


 自分に言い聞かせる。


 スライムがゆっくりと近づいてくる。


 蓮はじっと観察した。


 動きは遅い。


 攻撃する瞬間だけ、大きく跳ねる。


「だったら……」


 次に跳んできた瞬間を狙う。


 スライムが身体を縮めた。


「……今!」


 蓮が横へ飛ぶ。


 そして、すれ違いざまに石を叩きつけた。


 ――ゴンッ!


「……!」


 スライムの身体が大きく揺れる。


 だが、倒れない。


「まだ……!」


 蓮は距離を取った。


 スライムが振り返る。


 再び跳ぶ。


 蓮は避ける。


 石を振る。


 避ける。


 振る。


 何度も繰り返す。


 腕が痛い。


 息も苦しい。


 それでも諦めなかった。


「これで……!」


 蓮は両手で石を持ち上げた。


 スライムが跳ぶ。


 その瞬間。


 全力で振り下ろした。


 ――ドンッ!


 地面にスライムの身体が叩きつけられる。


 そして。


 半透明の身体が、ゆっくりと崩れていった。


「……え?」


 蓮は動きを止めた。


 スライムが消えていく。


 光の粒になり、やがて何も残らなくなった。


「……倒した?」


 自分の手を見る。


 震えている。


 怖かった。


 何度も逃げた。


 それでも。


 今、自分の力で初めて魔物を倒した。


「……俺が?」


 その瞬間。


 頭の中に、あの声が響いた。


《世界で初めて魔物を討伐しました》


 蓮は顔を上げた。


《特別報酬を付与します》


「……また?」


 白い光が蓮の身体を包む。


《固有スキル――》


《生存適応》


 光が消える。


 蓮はしばらく何も言えなかった。


「……生存適応?」


 意味が頭の中に流れ込んでくる。


《生存適応》


《生存に必要な能力が、環境や経験に応じて適応・向上する》


「……」


 蓮は自分の身体を見た。


 何かが急激に変わったわけではない。


 力が突然何倍になったわけでもない。


 傷が一瞬で治るわけでもない。


 ただ。


 ほんの少し。


 身体が軽い気がした。


「……気のせいかな」


 蓮は首を傾げた。


 そして、地面を見る。


 さっきまでスライムがいた場所には、何も残っていない。


「……」


 蓮は石を置いた。


 手を見る。


 まだ震えている。


「怖かった……」


 それでも。


 逃げ切っただけではない。


 自分で倒した。


 蓮は初めて、この場所で生き残るための方法を理解した。


 ――戦わなければならない。


 そして。


 ――生きなければならない。


     ◇


 その日の夜。


 蓮は岩陰で身体を丸めていた。


 食べられるものはない。


 水だけを少し飲んだ。


 寒い。


 眠い。


 疲れている。


 けれど、眠るのが怖かった。


 狼がいる。


 他の魔物もいるかもしれない。


「……」


 蓮は膝を抱えた。


 家なら、今頃は母親が夕飯を作っている時間だった。


 父親が帰ってきて。


 三人で食卓を囲んでいる。


 そんな光景を思い出す。


「……母さん」


 目を閉じる。


「……父さん」


 返事はない。


 蓮は小さく息を吐いた。


「……帰らないと」


 外へ出る。


 美月に会う。


 そして――


 また普通の生活に戻る。


 それだけを考えていた。


 蓮は知らなかった。


 この日から始まる生活が。


 一日。


 一週間。


 一か月。


 一年。


 そして十年。


 自分の身体も。


 感覚も。


 考え方も。


 すべてを変えていくことを。


 今はまだ。


 ただの十五歳の少年だった。


 生き残ることだけで精一杯の。


 普通の少年だった。

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