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10年ぶりに帰った俺、世界最強のUnknownになっていた  作者: 神崎昴
第一部 10年ぶりの帰還

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第5話 最初の魔物

 走る。


 ただ、それだけだった。


「はぁ……はぁ……!」


 蓮は必死に足を動かしていた。


 後ろから聞こえる足音。


 ――ドドドドッ。


 岩の床を蹴る音が、どんどん近づいてくる。


「なんで……!」


 振り返る余裕なんてない。


 怖かった。


 何が起きているのか理解できない。


 ただ、あの狼に捕まったら死ぬ。


 それだけは分かった。


「はぁ……!」


 足がもつれる。


 危うく転びそうになる。


 それでも走った。


 前方に道が二つに分かれている。


「右……!」


 蓮は右へ曲がった。


 直後。


 ――ドンッ!


「うわっ!」


 巨大な狼が壁へ突っ込んだ。


 蓮はその隙にさらに走る。


 けれど。


「……っ!」


 すぐ後ろから唸り声。


 狼は止まっていなかった。


「速すぎる……!」


 普通の人間が逃げ切れる速さではない。


 それでも蓮は走った。


 肺が痛い。


 喉が焼ける。


 足が重い。


 それでも止まれない。


 止まったら終わる。


「はぁ……はぁ……!」


 前方に小さな隙間が見えた。


 人一人なら通れそうな岩の隙間。


「……あそこ!」


 蓮は身体を滑り込ませた。


 狼が追ってくる。


 しかし、その巨体では入れない。


 ――ガンッ!


 狼が岩にぶつかった。


「……!」


 蓮は必死に奥へ這っていった。


 狼は何度も岩を引っ掻いている。


 鋭い爪が岩を削る音が聞こえる。


 蓮は身体を丸めた。


 息を殺す。


 心臓が激しく鳴っていた。


 ドクン。


 ドクン。


 ドクン。


「……帰りたい」


 思わず口からこぼれた。


 家に帰りたい。


 美月に会いたい。


 父さんに会いたい。


 母さんに会いたい。


 涙が出そうになる。


 けれど、今は泣いている場合じゃない。


 狼がまだ近くにいる。


 しばらくして。


 足音が遠ざかっていった。


「……行った?」


 蓮はゆっくり顔を上げた。


 耳を澄ます。


 何も聞こえない。


 恐る恐る隙間から外を見る。


 狼の姿はなかった。


「……助かった」


 蓮はその場に座り込んだ。


 全身から力が抜ける。


「……怖かった」


 身体が震えていた。


 今まで感じたことのない恐怖だった。


 そして蓮は初めて理解した。


 ここには、自分を殺せる存在がいる。


 しかも。


 それは一体だけとは限らない。


     ◇


 それからしばらく、蓮は慎重に進んだ。


 なるべく物音を立てない。


 周囲を確認する。


 何かが動いたら止まる。


 そして、少しでも危険を感じたら逃げる。


 それでも。


 空腹は消えない。


 喉も渇いている。


「……水」


 蓮は岩壁から流れている小さな水滴を見つけた。


 手を差し出す。


 一滴。


 二滴。


 手のひらに溜まった水を口にする。


「……」


 飲める。


 蓮は何度も手を伸ばした。


 ほんの少しだけ。


 それでも、今はありがたかった。


 その後も歩き続けた。


 そして――


「……何かいる」


 今度は小さな音だった。


 岩陰から何かが這い出してくる。


「……?」


 半透明の身体。


 ぷるぷると揺れる。


「……スライム?」


 蓮は首を傾げた。


 ゲームや漫画でしか見たことがない。


 けれど、目の前にいる。


 現実の存在として。


「……これも、魔物?」


 スライムがゆっくり近づいてくる。


 狼ほどの恐怖はない。


 それでも蓮は警戒した。


「……」


 近くに落ちていた石を拾う。


 スライムが跳ねる。


「うわっ!」


 蓮は横へ避けた。


 スライムが地面に落ちる。


 ――べちゃっ。


「……攻撃してくる」


 蓮は石を握り直した。


 もう逃げるだけでは駄目だ。


 この場所で生きるためには。


 何かを倒さなければならない。


 蓮は震える手で石を構えた。


「……やるしかない」


 スライムが再び跳ねる。


 蓮も動いた。


 そして――


 初めての戦いが始まった。

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