第66話「1位 Unknown」
ダンジョンが現れてから、少しずつ世界は変わっていった。
魔物。
魔石。
そして、人間に発現する特殊な能力。
人々は、これまで存在しなかったものを次々と知ることになった。
そしてもう一つ。
ダンジョンから発掘された、奇妙な魔道具。
「これが……登録用の魔道具?」
「ああ。ダンジョンの中から発見されたらしい」
それは、一見すると何の変哲もない黒い石の台座だった。
しかし、触れた人間の情報を読み取り、その人物を登録することができた。
名前。
年齢。
能力。
その他、いくつかの情報。
人類が作ったものではない。
誰が作ったのかも分からない。
それでも、その魔道具は確かに機能した。
各国は研究を進め、その仕組みを利用して冒険者の登録制度を整えていった。
◇
そして、登録された冒険者たちの記録を調べている中で、ある奇妙な現象が発見された。
「……ランキング?」
「ああ」
ダンジョンには、冒険者の攻略記録をもとにしたランキングが存在していた。
誰が作ったのかは分からない。
人類が設定したものでもない。
それなのに、ダンジョンは冒険者たちを自動的に評価していた。
各地の登録魔道具を通して、その情報を確認できることも判明した。
世界中の冒険者たちは、そのランキングに注目するようになった。
◇
ある日。
一人の冒険者がランキングを確認していた。
「……これが世界ランキングか」
表示された名前を順番に見ていく。
世界中の強者たちが並んでいる。
その中でも、一番上。
そこには――
1位 Unknown
と表示されていた。
「……Unknown?」
冒険者は首を傾げた。
知らない名前だった。
「誰だ、これ?」
「さあな」
隣にいた仲間も首を横に振る。
「聞いたことないぞ」
名前だけではない。
所属も分からない。
国籍も分からない。
姿を見た者もいない。
そもそも、そんな冒険者が登録されたという記録すらなかった。
「なのに……1位?」
誰も答えられなかった。
◇
Unknown。
世界ランキング1位。
それだけが、確かな情報だった。
なぜ1位なのか。
どれほど強いのか。
どこの国にいるのか。
何者なのか。
何一つ分からない。
それでも、ダンジョンのランキングには確かに存在していた。
そして――
順位が変わっても。
新しい冒険者が現れても。
Unknownだけは、1位から動かなかった。
◇
やがて、Unknownの名前は世界中へ広がっていった。
『世界ランキング1位、Unknown』
『正体不明の冒険者』
『なぜ登録記録のない人物が1位なのか』
様々な憶測が飛び交う。
「どこかの国が隠しているんじゃないか?」
「いや、存在そのものが偽物なんじゃないか?」
「ダンジョンが間違えているだけだろ」
誰も真実を知らない。
だからこそ、人々はUnknownについて語った。
世界最強なのではないか。
どこかで秘密裏に活動しているのではないか。
あるいは――
人間ではないのではないか。
噂だけが、少しずつ大きくなっていった。
◇
その頃。
世界中の冒険者たちは、Unknownを意識するようになっていた。
「いつか、Unknownを抜いてやる」
「世界一になる」
それを目標にする者も現れた。
だが――
Unknown本人は、そのことを知らない。
自分が世界ランキング1位になっていることも。
世界中で名前を知られていることも。
そして、人々がその正体を探していることも。
何も知らない。
ただ一人。
誰にも知られない場所で――
今日もダンジョンの奥を進んでいた。




