第64話「人類の変化」
ダンジョンが世界各地に現れてから、しばらくの時間が流れた。
各国はダンジョンの調査を進めていた。
内部には未知の植物や鉱物が存在し、さらに人類がこれまで一度も見たことのない生物――魔物まで存在していた。
そして、調査が進むにつれて一つのことが分かってきた。
魔物は、普通の動物とはまったく違う。
身体能力が異常に高い。
銃器がほとんど通用しない個体もいる。
その一方で、刃物などの武器は有効だった。
各国はダンジョン内での戦闘方法を模索し始めていた。
◇
ある日。
一人の調査隊員が、ダンジョン内で魔物と戦っていた。
「来るぞ!」
黒い獣が地面を蹴る。
隊員は横へ飛び、爪をかわした。
すぐに立ち上がり、手にした剣を構える。
「……今度こそ!」
魔物が再び飛びかかってくる。
隊員はタイミングを合わせ、剣を振り抜いた。
ザシュッ。
刃が魔物の身体を切り裂く。
魔物が倒れた。
「……倒した」
隊員は荒い息を吐きながら、倒れた魔物を見つめる。
その瞬間だった。
身体の奥から、突然熱が広がった。
「……なんだ?」
視界に、見たことのない文字が浮かぶ。
『魔物の討伐を確認しました』
『スキルを獲得しました』
『《身体強化》を獲得しました』
「……スキル?」
隊員は呆然とした。
意味が分からない。
だが――
明らかに、身体に変化が起きていた。
握っている剣が軽い。
身体が先ほどまでとは違う。
試しに腕へ力を込める。
「……嘘だろ」
今までなら両手で動かしていた重さの物を、片手で持ち上げることができた。
その報告は、すぐに上層部へ送られた。
◇
「魔物を倒した直後に、特殊な能力が発現した?」
「はい。本人の証言だけではありません。身体能力も明らかに変化しています」
「偶然ではないのか?」
「その可能性も考えました。しかし――」
別の調査隊でも、同じ現象が確認された。
魔物を倒した人間。
その一部に、身体能力の向上や特殊な感覚など、これまで存在しなかった能力が発現していた。
さらに調査を続ける。
魔物を倒す。
能力が発現する。
別の魔物を倒す。
新しい能力が発現する。
少しずつ、共通する法則が見えてきた。
そして研究者たちは、一つの結論へたどり着く。
「……魔物を倒すことが、能力発現の条件なのか」
まだ確実ではない。
それでも、これまでの記録を見る限り、その可能性は極めて高かった。
◇
この情報は、やがて世界中へ広がった。
『魔物討伐後、一部の人間に特殊能力』
『魔物を倒すことで能力を獲得できる可能性』
『世界各地で能力発現者を確認』
人々のダンジョンに対する認識が変わり始めた。
ダンジョンは、ただ恐ろしい場所ではない。
そこには、人間の常識を超えた力が存在する。
そして――
その力を手に入れる方法もある。
魔物を倒すこと。
それが、今のところ唯一確認されている方法だった。
◇
各国は本格的にダンジョン攻略へ乗り出した。
軍人。
警察官。
特殊部隊。
そして、一般人の中からも魔物との戦いを志願する者が現れ始める。
やがて、彼らは一つの名前で呼ばれるようになった。
――冒険者。
人類は少しずつ、ダンジョンという未知の世界へ踏み込んでいった。
◇
その頃。
誰も知らない場所。
誰も到達したことのない深さ。
30階層。
蓮は一人、ダンジョンの奥を歩いていた。
「……」
手には一本の剣。
周囲には、すでに倒した魔物の姿がある。
蓮にとって、魔物を倒すことは特別なことではなかった。
それは、三年間繰り返してきた日常だった。
外の世界で、今まさに人類が知り始めた力。
それを蓮は――
すでに三年前から使い続けていた。




