第60話「初めてのボス戦」
グレートオーガが棍棒を振り上げた。
蓮は身構える。
次の瞬間――
巨大な棍棒が振り下ろされた。
ドンッ!
地面が大きく砕ける。
「……!」
蓮は横へ飛んでかわした。
そのまま距離を取る。
今の一撃。
まともに受ければ、ただでは済まない。
「速さは……俺の方が上か」
蓮は魔力を脚へ集中させた。
身体強化。
魔力操作。
これまで何度も繰り返してきた動きだ。
一気に踏み込む。
グレートオーガの懐へ入り、槍を突き出す。
魔力を纏わせた穂先が、分厚い皮膚へ突き刺さる。
「……浅い!」
槍を引く。
グレートオーガが腕を振り回した。
蓮は後ろへ跳ぶ。
棍棒が目の前を通り過ぎる。
風圧だけで身体が揺れる。
「こいつ……」
攻撃の威力が桁違いだ。
蓮は再び踏み込む。
今度は脚。
身体。
腕。
それぞれへ瞬間的に魔力を集中させる。
グレートオーガの攻撃をかわしながら、槍を何度も叩き込む。
少しずつ傷が増えていく。
だが――
倒れない。
「まだか……!」
グレートオーガが吠える。
巨大な拳が迫る。
蓮はかわした。
その直後。
横薙ぎに振られた棍棒が迫ってきた。
「っ!」
避けきれない。
咄嗟に槍を横に構える。
ガンッ!
凄まじい衝撃。
蓮の身体が吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
地面を転がる。
身体中に痛みが走る。
蓮はすぐに立ち上がった。
だが、息が乱れている。
魔力もかなり消費していた。
もう一度、グレートオーガを見る。
まだ立っている。
「……強いな」
ここまでの魔物とは違う。
これまで覚えてきた戦い方だけでは、簡単には倒せない。
グレートオーガが再び棍棒を構えた。
蓮も槍を構える。
だが――
身体が重い。
魔力も残り少ない。
「このままじゃ……」
勝てない。
グレートオーガが踏み込む。
蓮も動く。
だが、わずかに遅れた。
棍棒が迫る。
「……!」
その瞬間。
『生存適応が発動しました』
世界が、一瞬だけ静かになった。
『現在の脅威への適応を開始します』
『身体強化と魔力操作の連携を最適化します』
「……!」
頭の中に、今までとは違う感覚が流れ込んでくる。
魔力の流れが見える。
どこへ流せばいいのか。
いつ流せばいいのか。
身体が理解していく。
蓮は迫ってきた棍棒を――
紙一重でかわした。
「……今のは」
身体が軽い。
違う。
軽いのではない。
無駄がなくなっている。
魔力を全身へ流していたわけではない。
必要な瞬間だけ。
必要な場所へ。
ほんの一瞬だけ、最大限の力を引き出している。
「これなら……!」
蓮は踏み込んだ。
脚へ魔力。
一瞬で加速する。
グレートオーガが振り向く。
その前に蓮は懐へ入っていた。
槍へ魔力を集中させる。
穂先だけではない。
槍そのものへ魔力を流す。
魔力が一本の槍に沿って走る。
「――いけっ!」
突き出す。
ズンッ!
槍がグレートオーガの身体を深く貫いた。
「グォォォォッ!」
グレートオーガが叫ぶ。
蓮は槍を引き抜く。
すぐに距離を取る。
グレートオーガが大きくよろめいた。
それでも倒れない。
「まだ……!」
蓮はもう一度踏み込んだ。
魔力を脚へ。
身体へ。
腕へ。
そして槍へ。
すべてを一瞬だけ繋げる。
グレートオーガが棍棒を振り下ろす。
蓮はその軌道を見切った。
横へ。
さらに一歩。
懐へ入り込む。
「これで――!」
槍を突き出す。
今度は完全に防御を貫いた。
グレートオーガの巨体が揺れる。
そして――
ドォンッ!
巨体が地面へ倒れた。
「……はぁ……」
蓮はその場に立ったまま、荒い息を吐いた。
槍を見る。
魔力はもう消えている。
それでも――
「勝った……」
10階層のボス。
グレートオーガを倒した。
蓮は倒れた巨体を見る。
最後の戦いで、自分の限界が少しだけ見えた。
そして同時に――
その限界を越える方法も。
『生存適応による戦闘適応が完了しました』
表示が消える。
蓮は拳を握った。
「……まだ強くなれる」
10階層。
ここまで来るのに長い時間がかかった。
だが、ここから先はさらに深い。
蓮はゆっくりと立ち上がった。
その視線は、まだ見ぬダンジョンの奥へ向いていた。




