第59話「10階層」
階段を下りた蓮は、10階層へ足を踏み入れた。
「……」
最初に感じたのは、静けさだった。
これまでの階層とは違う。
魔物の気配が少ない。
それなのに――
空気が重い。
蓮は槍を握り直した。
「嫌な感じだな」
しばらく進むと、一体の魔物が現れた。
黒い体毛に覆われた四足の魔物。
身体はブラッドウルフより一回り大きく、口元から鋭い牙が伸びている。
赤い目が蓮を捉えた。
蓮は《鑑定》を使う。
『名称:アイアンファング』
『種別:魔物』
『状態:良好』
『危険度:中』
「……強そうだな」
アイアンファングが低く唸る。
次の瞬間、地面を蹴った。
蓮は横へ飛ぶ。
鋭い爪が地面をえぐった。
蓮は身体強化を使い、反撃する。
魔力を槍へ流す。
穂先が魔物の身体を捉える。
だが――
「硬い……!」
浅い。
蓮は距離を取った。
これまでの魔物とは明らかに違う。
それでも、戦い方を変えれば倒せる。
蓮は魔力を脚へ集中させる。
一気に踏み込む。
魔物の攻撃をかわし、その横を抜ける。
振り向きざまに槍を突き込む。
今度は深く入った。
アイアンファングが倒れる。
「……ふぅ」
蓮は槍を下ろした。
10階層の魔物。
やはり、今までとは違う。
だが、まだ進める。
蓮はそのまま奥へ進んだ。
しばらく歩いていると、奇妙なことに気づいた。
魔物がいない。
気配すらない。
「……静かすぎる」
さらに進む。
やがて、巨大な扉が見えてきた。
「……」
扉は今まで見たことがないほど大きい。
そして、その向こうから――
強烈な気配が伝わってくる。
蓮は立ち止まった。
「いるな」
槍を構える。
扉の前まで歩く。
そして、ゆっくりと手を伸ばした。
扉が開く。
巨大な空間が広がっていた。
その中央に――
一体の魔物が立っている。
身長は三メートル近い。
筋肉に覆われた巨大な身体。
灰色の皮膚。
太い腕には、大きな棍棒が握られている。
その顔には二本の鋭い牙があり、赤い瞳が蓮を睨みつけていた。
蓮は《鑑定》を使う。
だが――
『対象への理解が深まりました』
『スキル《鑑定》が成長します』
『《鑑定 Lv.3》→《鑑定 Lv.4》』
「……!」
突然、表示が変わった。
蓮は驚きながらも、もう一度魔物を見る。
「鑑定」
今度は、より多くの情報が表示された。
『名称:グレートオーガ』
『種別:魔物』
『状態:良好』
『危険度:極高』
『身体能力:極高』
『魔力:中』
『特徴:高い身体能力と強靭な肉体を持つ』
「……オーガ」
蓮は目の前の巨体を見つめた。
これまで戦ってきた魔物とは、明らかに違う。
圧倒的な腕力。
分厚い身体。
手にした巨大な棍棒。
まともに受ければ、一撃で致命傷になりかねない。
グレートオーガが棍棒を肩に担ぐ。
そして――
大きく息を吸った。
「……」
蓮は槍を構え直す。
ここまで来るために身につけた力。
《身体強化》。
《魔力操作》。
そして、魔力を纏わせた槍。
すべてを使わなければ、この相手には届かない。
グレートオーガが一歩踏み出した。
地面が揺れる。
蓮も一歩前へ出る。
「……来い」
10階層。
初めての大きな壁との戦いが、始まろうとしていた。




